13. 指切り


「短刀は刺突が1番効果的です。斬撃も出来ますが、どうしても通常の刀に劣ってしまいます」
「し、刺突…斬るより大変そうですね…」

道場でアオイさんから、短刀の扱い方についての話を聞きながら、私はコクコクと頷く。
話を聞いて段々恐ろしくなってくるのは、何故だろう…。
手に持つ短刀を扱えるようになるためには、必要な事なんだけどね。

「刺突も簡単ではありません。致命傷を与えるための一撃を1回で与えなければなりません」
「それは何故ですか?」
「短刀が他の刀に比べ短いためです。間合いに入り、傷を負わせても、致命傷にならなければ、そのまま斬られます」
「ひぃぃ…」

言っている事は至極真っ当だ。
でも想像するだけで怖い。そんなこと言ってられないのは分かるけど…!
私の顔が引きつっている事に気づいたアオイさんが、ふう、と一息漏らす。

「まずは、持ち方から練習しましょう。」
「お、お願いします!」

道場の外から聞こえる野郎共の雄叫びを聞きながら練習した結果、私はその日、ずっと手首が痛かった。


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「あら、伊之助さん。どちらに行かれるんですか?」

道場から戻る時に、たまにはお庭を通ろうかな、と思ってトコトコ歩いていた時だった。
門の近くに伊之助さんを見かけたので、声を掛けた。
だってこの人、隊服を着てるから(半分だけ)外に行くのかなって。

「任務に決まってんだろが」
「え、1人で?」

当たり前のように猪の頭が答えた。
そう言えば日輪刀も持ってるみたい。任務と言われればそうかも。
でも最近は3人で行ってた事が多かったから、1人で任務って、なんか新鮮だな。

「1人で悪ィか」
「そんな事ないですけど。でも心配ではありますけどね」

私がそう答えると、伊之助さんはそっぽを向いて鼻を鳴らした。

列車事件の号泣していた伊之助さんが頭を過ぎる。
あれから訓練の気合いの入れ方とか変わったし、なんか1つ成長したように見えるんだよね。
1人でも大丈夫だとは思うけど、単純に心配はする。

「そろそろアイツも単独任務があるんじゃねぇかよ」
「伊之助さんもあるって事は、あるかもしれないですね」
「お前も行くのか?」

猪の瞳が私を捉える。
アイツ、というのは善逸さんの事だろう。
私は数回瞼をパチパチして「そのつもりですけど…」と言うと伊之助さんは「そうか」と答えた。
私が善逸さんに付いていくことなんて、今更聞かれなくても分かってると思ってたけど。
どうしたんだろう、伊之助さん。

「無理すんなよ」
「え、伊之助さん心配してくれてるんですか!?」

伊之助さんの口から聞いた事ないセリフを聞いて、私は驚愕する。
あの伊之助さんが人の心配をしている…!?
何だろう、今日は槍が降ってくるのかな?

「そんなんじゃねェ!!」

被り物の上からでもわかる程、唾を飛ばしながら声を張り上げる伊之助さん。
思わずくすりと笑ってしまった。

「無理しないで下さいね。伊之助さんも」

約束、と小指を出して言うと、伊之助さんは首を傾げた。
意味が分かってないのかな?

「指切り、しましょ?」
「ケジメか?」
「違います。そんな恐ろしい約束ではありません」

ふとヤクザのそれを思い出した。
違う、それではない。なんで指切りげんまん知らない癖に、そんな事知ってるの?


「伊之助さんも指出して」
「何で」
「早く!」

おずおずと伊之助さんが同じように小指を立てる。
そこへ私の小指を絡めて「ゆーびきーりげんまん」と歌い始めた。
指を絡めた時に伊之助さんがビクリと身体を揺らしたけど気にしない。

「ゆーびきった!」

歌の終わりと同時にお互いの小指を離す。
未だポカンとした様子の猪に「約束守ってくださいね」と一言添えた。

「わけわかんねぇ」
「はいはい。気をつけて行ってきてくださいね!」
「あぁ」

ひらひらと右手を振ると猪は踵を返して、門から一歩出た。
小さくなっていく背中を一通り見つめて、私も部屋へ戻ろうかと一歩後ろへ下がった。

どん、と何かに当る。


「あれ?」


慌てて後ろを振り返ると、さっきまで居なかった善逸さんが立っていた。
しかも歯を剥き出して私を見下ろしている。
目はめちゃめちゃ据わってるし。


「何で、伊之助と一緒に居たの?」


発せられる一言が冷たくて吃驚した。
何だかいけない事をしたような気がして、私は逃げようとする。
それを善逸さんの手が阻む。

なになになに!?
怖い、善逸さん!


「に、任務に行かれるみたいだったので、ご挨拶してただけです」
「ふーん」


興味無さそうに言ってるけど、目は全然そんな事ないよ!
滅茶苦茶こっち見てるし、何ならもっと喋れと言いたげである。


「ふーん」


同じ事言いながらちょっとずつ近づいてくるの、やめて欲しい。
普通に怖いから。


「あ、伊之助さんがね、私の心配してくれたんですよ!珍しくないですか?」


少しでも空気を変えようと話題を提供してみたけど、更に善逸さんの目は細められた。

「伊之助なら、心配するだろ。名前ちゃんの事ならね」
「そ、そうですかねぇ…?」
「何て言ったの?」

不機嫌を含んだ声に私は苦笑いで答える。



「善逸さんの任務についていくのか、って聞かれたので、そのつもりですよって」



下から覗き込むように言うと、善逸さんの口が少しだけもぞもぞ動いた。
あ、少し照れてる。
最近何となく分かってきたんだよね。


「危ないよ」
「今更ですか?」
「…そうだけど」
「でしょ。行きますよ、怒られても泣かれても」


ずっと付いていきますから。

善逸さんの手を無理やり引っ張って部屋へと戻る私。
いつの間にか善逸さんの機嫌は直っていた。

へんな善逸さん。



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