15. 女性ばかりの村


「私達、人が消える村があるって聞いてやってきたんです」



役に立たない善逸さんに代わって、私が少女に説明をする。
少女は最初怪訝そうな顔で善逸さんを見ていたけど、私が説明すると納得したような顔をした。

「憲兵の方か何かですか?」
「うーん、近いような違うような?」

憲兵と言われれば近いかもしれないけど。
少女に苦笑いで答えると、少女は「待っていたんです!」と声を上げた。
頭の布を取り外した少女は、可愛いショートカットの艶やかな髪をしていた。

「ご案内します。村の者も歓迎するでしょう」

そう言い、少女はナチュラルに善逸さんの手を引っ張る。
可愛い女の子に手を握られて善逸さんの頬が緩むのが分かった。
一瞬で額に青筋が出そうになったけど、彼女は悪気があるわけではない。
貼り付けた笑顔で私はその後ろを付いていく事にした。

あとで善逸さんは〆る、と心に決めて。


少女の後について歩いていくこと20分。
確かに村はあった。
そこだけ草木が整えられており、その一帯は日の光が入るようになっていた。
小さな畑がそこら中にあり、その隣にも家屋が何軒か確認できる。
ここからだと働いているのは女性ばかりのように見える。


「私の家はこの村の奥になります」


少女の名前は早苗と言った。
家族は既になく、一人暮らしをしているとの事。
彼女の案内で村の中を歩く私と善逸さん。
村の中を歩いていると、そこら中にいる村の女性たちが私達を見る。
いや、見られているのは私じゃない。
善逸さんだ。

あまりの歓迎の様子に私は違和感を覚えた。
村の女性たちも確認できるだけで皆、二十代くらいの若い人ばかりである。
男性はいないのかな?

そんな様子に気付かない善逸さんは、元気に鼻の下を伸ばしていた。
本当に、本当にこの人は。

村の中に入っても早苗さんは善逸さんの手を離さない。
いい加減離してほしいな、なんて後ろから呪う事しかできない。


「早苗さん、ここは男性がいないんですか?見たところ、女性ばかりですけど」


前を歩く早苗さんに声を掛けると、早苗さんは首を後ろにして「そうなんです」と口を開いた。

「10年ほど前までは男性も居たのですが…いえ、定期的に男性も居住しているんです。この辺の話は家でさせて頂きます」

そう言って話題を終わらせてしまう早苗さん。
何か事情がありそうだな。
鼻の下を伸ばしている善逸さんの様子にも変化は無いから、鬼が近くに居るという事でもなさそう。
取りあえず、話を聞いて様子を見るかな。


女性たちの視線を集めながら、私達は早苗さんの家へと急いだ。



―――――――――――



「すみません。村の者の視線が不気味だったでしょう?」
「いえ、少しびっくりしましたけど」
「あんなに女の子に見られたの初めてだったなぁ」


早苗さんの家について早々。
お茶の用意をしながら早苗さんが眉を八の字にして謝罪する。
善逸さんは相変わらず鼻の下を伸ばしていたので、隣から肘鉄を入れておく。
ぐぅ、と善逸さんが小さく鳴いた。


「この村に男性がいるのが珍しいのです。すぐに慣れると思いますが…」
「そうだったんですね」
「女の子しかいないって、ここは天国か何かですか!?名前ちゃん、ずっとここに居ない?」
「善逸さん、もう黙って」


本当に鬱陶しい。
テンションの高い善逸さんを適当にあしらって、早苗さんに向き直った。
早苗さんは私達の前へ座り、村の様子について話し始めた。


10年ほど前までは、この村にも普通に男性はいたそうだ。
それが一人消え、二人消え、と年月が経つ毎に男性ばかり神隠しにあうという。
最初は捜索隊が集められ、山の奥深くまで探しに行った事もあったようだが、捜索隊の男性陣まで居なくなってしまい、この村から男性がこぞって消えたと。
村に残っていた男性陣も家族を連れて村から出て行ってしまい、結果ここに残ったのは女性だけとなったらしい。


「高齢の女性もいるにはいるのですが、働きに出るのは若者ばかりですので」
「なるほど。定期的に男性が居住している、というのは?」
「専ら旅の方です。山を迷っている方がこちらで宿泊していかれるのです」


早苗さんの説明を頷きながら聞く。
なるほど、村の状況は分かった。
だから善逸さんはあんなにジロジロ見られたわけね。
気持ちの良いものではないけど、仕方ない。


「10年も前から人が消えてるのに、何で今になって噂となって出てきたの?遅すぎない?」


話を聞いていた善逸さんが首を傾げながら尋ねた。
善逸さんの意見に同意だ。
10年も前から人が消えているのに、鬼殺隊に話が降りてきたのは最近だ。
それまで誰も通報しなかったのだろうか。


早苗さんが言い辛そうに答える。


「それについては、今まで村の者が誰も口を割らなかったのでしょう。人が消える、というのを神の御業と考える者もいます」
「神の御業?」
「この村には土地神と呼ばれる神が居ると言われています。神隠しはその土地神によるものだと」
「土地神、ねぇ……」


善逸さんが天井を仰いだ。
早苗さんの言葉に私は村の人同様、違和感を感じるけど、うまく説明できない。
10年前というのが引っかかる。


「ここに宿泊されていく旅人も数日のうちに消えてしまうのです」
「え、えぇ!?じゃあ、俺たちも、てか、俺も消えるんじゃないの!?」

もっと早く言ってよ!と早苗さんに吠える金髪。
この人、さっきまでここに居たいとか言ってなかった?
横でドン引きしながら聞いていたら、早苗さんが「大丈夫です、この家は結界がありますので」と微笑んだ。

「結界?」
「昔から、私共の家では神に仕える仕事をしてきました。ですので、この家に居れば大丈夫ですよ」


横から小声でホントかよ、とため息と共に聞こえた。
私もそう思うけど、実際、入ってしまったのはしょうがないので、解決するまで留まるしかない。


「部屋は二階をお使いください。善逸さんと名前さん、別々の部屋でよろしいですね?」
「え、一緒でもいい…」
「別々でお願いします」


善逸さんの言葉の上から被せるように言う私。
ジロリと善逸さんの目が私を捉えたけど、関係ない。

ただ、少し気になるんだよね。

……まあ、いっか。



少しの不安を胸に、私達は早苗さんの家でお世話になる事になった。



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