16. 狼さんこちらです


その後も様子を見たけども、家の中は特に変わった様子もなくて、取り敢えず夕餉を頂く事になった。
私は何故か違和感が拭えなくて、ずっと眉を潜めながら考えていたけど、考えてもわからなかったので、途中で諦めた。
善逸さんもなんかムカつくし。
いつまでデレデレしてるんだ、この男は。
ちらりと隣で食べる事よりも、早苗さんを眺める事に力を注いでる男子に目をやる。
本当に腹立つ。

その流れでお風呂まで頂いた後、就寝用の浴衣まで出してもらったので有難く着させてもらった。
二階の部屋に案内されたが、善逸さんの隣の部屋が私で、一応中は襖を開けると隣の部屋に行ける様になっていた。
早苗さんは1階で寝るらしいので、何かあれば呼んでくれと言い、降りて行ってしまった。
私たちは各々で用意された布団を敷きつつ、布団に入ることにしたのだった。

布団に入ってからも、私の方は全く眠れない。
今まで恐怖で眠れない事はあったけど、違和感で眠れないなんて初めてだ。
1人になると余計考えてしまうから、眠れない悪循環の出来上がりである。
無駄にゴロゴロと身体を揺らしてみたりもしたけれど、無意味だった。

女性ばかりの村、恐らく鬼の仕業だと思うけど、この村では土地神の仕業だと考えられている。
男性しか食べない鬼、ねえ…?
10年も前から、と言うけれどその割に女性の数が多くはないだろうか?
ここに残った男性も家族を連れて逃げたなら、そもそも村の人口が減ってなきゃおかしい。
特に若い女性が残っているのが考えられない。
変な村だな…。

「寝れない…」

1人で悶々と考えても始まらない。
暇を持て余した私は、布団を勢いよく剥ぎ取ると、隣の部屋に通じる襖を少しだけ開けた。

「善逸さん、起きてますか?」

数センチ開けてそこから目だけで覗くと、超引きつった顔をした善逸さんが布団の中からこちらを見ていた。

「…それって、普通開ける前に聞かない?」
「どうせ音で私が起きてるの分かってたでしょ」
「名前ちゃんが寝れなくてゴロゴロしてる音までバッチリだったよ」
「……」

この人の隣の部屋で寝てもバレバレじゃないか。
今後隣の部屋で寝るのはやめた方がいいかもしれない。
私は善逸さんの許可を取るわけでもなく、襖を大きく開けて隣の部屋に侵入した。
善逸さんは諦めてため息を吐いていた。


「ほら、やっぱり同じ部屋で良かったじゃん」


呆れた声で善逸さんは呟いた。





「善逸さんは違和感を感じなかったんですか?」
「違和感と言えば違和感だけどさぁ、今のところ鬼の音もしないから何とも」

布団の上で向かい合うように2人で座った。
私は自分の部屋から枕を持ってきていたので、それ抱いて善逸さんに尋ねる。
善逸さんも何か思うところはあるみたいだけど、今は何の手掛かりも掴めてない感じだ。

「早苗さんも何か変なんですよね、ここが限界集落だからかな…」
「可愛いよね、早苗ちゃん」
「誰もそんな話してませんけど?よくも私の前でそんな会話出来ますね?」
「痛っ、痛いから!摘まないで!」

目をハートマークにしながら善逸さんが言うので、腹が立って善逸さんの太もも辺りを思いっきり指で摘む。
何を考えてるんだこの人。

思わず目を細めて善逸さんを見ると、若干涙目のそれと目が合った。
この村に入ってから私は苛立ちが止まらない。
むかつくむかつく。

「大体、ずーっとデレデレし過ぎじゃないですか?何考えてるんですか、ほんともう」

私がそう言うと、善逸さんの顔が一瞬ポカンとして、それから口元からニヤァと気味悪く笑い始めた。
それがホントに気味悪くて、更に目を細める私。

「なんです、その顔」
「いや…名前ちゃんが嫉妬してくれたんだーと思って」
「……ほんとウザイ」

持ってた枕を善逸さんに投げ付けた。
残念ながら気味悪い笑みを保ったまま、善逸さんがキャッチした。
ムカつく。キモイ。

ぷぅ、と頬を膨らませて善逸さんを見た。
前から思ってたけど、この人浴衣着てる時少しだけ、はだけてるんだよね。
鍛えてる胸板が見えて今更ながら、私は目線に困る。

「名前ちゃん?どうしたの?」

ニヤニヤして私に近づく善逸さん。
どうしたもこうしたもない。
全部善逸さんの所為だ。
イライラするのも、目線に困るのも。

「何で寄って来るんですか…」

近付かれた分だけ私も後退する。
でも善逸さんとの距離は離れない。
ニヤニヤしていた口元も気持ち悪いそれから、何だか色気を感じるような笑みに変化している。

「だって、名前ちゃんが逃げるから」
「逃げますよ、そりゃあ!」

後ろ手に下がっていくけど、もう限界のようだ。
あ、と思った時には善逸さんが私の肩を掴んで、そのまま後ろへ倒してしまう。
所謂、押し倒されたという状況だと思う。
いつも以上に善逸さんの身体が近くて、全身が緊張するのが分かった。

「俺、言ったよね?」
「な、なにを…」
「嫁入り前の女の子が男の部屋に来るなって」
「善逸さん今回は何も言ってないじゃないですか」
「そりゃあさ、」

目の前の善逸さんの髪が私の顔に触れる。
近い近い近い!
ちょ、離れて!私の脳は処理落ちしそうです!



「俺だってその方が都合いいし」



掠れた声で耳元で囁かれる。
善逸さんのこんな声聞いた事ない。
思わずびくん、と身体が跳ねてしまう。




「ぜん、い、んぅ」



名前を呼ぼうとした。
その口はあっという間に塞がれてしまった。
逃げようと手で胸板を押してもびくともしない。
角度を変えて善逸さんが何度も口を塞いでくる。
その内、私の手も善逸さんの手で固定され、動けなくなってしまった。



「ぁ…」



息が続かない、と思っていた矢先、やっと善逸さんの顔が離れた。
その目は熱を孕んでいて、私はどうしていいか分からなくなる。

善逸さんが自分の浴衣を乱暴に脱ごうとした、その時だった。





「我妻さん、起きてらっしゃいますか?」



襖の向こうから、早苗さんの声がした。



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