23. 帰還


「この祠は村の者と相談して潰そうと思います」

祠の前に出てきた時は、また日は登っていなかった。
出てきた祠の入口を見つめながら、早苗さんがぽつりと呟く。
私は「その方がいいです」と答え、早苗さんの肩に手を置いた。
あとは早苗さん達村の人でこの村を続けて行くのか、出ていくのか決めた方がいいと思う。
辛い事もあるけれど、自分達が育った場所なのだから。

「さぁ、戻りましょうか。名前さんの手当てもしないと!」

無理やり早苗さんが明るめの声を出して、私に笑いかける。
私達は早苗さんの家に向かって歩き始めた。
帰りに湖に目を向けると、行きで見た時よりも水面が煌めいて見えた。



家に着いてすぐに首を見てもらってる間に、善逸さんがチュン太郎ちゃんを通じて隠の人に連絡をしていた。
これで、今まで日の目を浴びることが無かった村の存在が明らかになるだろう。
鬼もいなくなったのだから、あんなふざけた風習も無くなる。
早苗さんも自由に生きていける。

「もう、出られるんですか?」

塗り薬を出してくれた早苗さんが言う。
私と善逸さんはこくりと頷き「任務が終わったので」と微笑むと、少し悲しそうな顔が目に入った。

「お2人には本当になんとお礼していいか…」
「お気になさらず。それに実働は善逸さんで、私は大して役に経ってませんし」

そう言って笑うと早苗さんは緩やかに首を振った。

「お2人がいたから、私は両親の生前を知ることが出来ました。本当にありがとうございます」

私の手をぎゅっと握る早苗さん。
その手が更に強く握られたので、私も握り返した。

「手当、ありがとうございます。私達の後に隠密部隊がやってきますので、彼らに後始末をお願いしますね」
「ええ。何から何までありがとうございます。名前さん、我妻さん、どうかお幸せにお過ごしください」
「…何か照れるけど、ありがとう早苗ちゃん」

家の前で私たちは別れた。
早苗さんは村の入口まで送ろうとしてくれたけど、きっと昨日から疲労たっぷりの筈だから、遠慮させてもらった。
また会えるかわからないけど、会えたらいいな。
小さくなっていく早苗さんに大きく手を振って、私たちは歩を進めたのだった。




早朝の村は淡い陽の光に包まれて、来た時に感じたギスギスした雰囲気とは全く異なっていた。
きっとこれからこの村は変わっていくんだろうなって、頭の片隅で考えながら村の光景を見る私。

「善逸さん、今日は村の人が外に居ませんね」
「朝早いからね。居たら穴が空くほど見られるよ」

はあ、と小さくため息を零す善逸さんを横目に、私はくすりと笑った。

「実は嬉しかったでしょ?」

そう言って顔を覗き込むと、善逸さんの目が泳いだのが分かった。


「あー!本当に嬉しかったんですか!?さいってーさいてー」
「いや…違うって!!男ならさぁ、憧れるじゃん!!」


善逸さんの反応に、私は目を細めて軽く罵倒した。
そこは嘘でも「そんなことないよ」とか言う所でしょ?
何でこの人こんなに素直なの?
ムカつくムカつく!!

「自分が少しだけモテたからって、調子に乗って…ほんとムカつく。その内私もイケメンから結婚を申し込まれたりしたりしないですかねー」

半分ヤケになって足元の小石を蹴った。
怪訝そうな顔をした善逸さんが「いけめん?」と首を傾げる。

「イケメンというのは男前な男性のことを言うんですよー」

口を尖らせて言うと、明らかに善逸さんの口元が歪められる。
善逸さんから「あっそ」と面倒臭そうに返ってきた。
キィイむかつく!!この男、覚えててよ!!



馬鹿みたいな会話を楽しんで私たちは村を出た。
山道は来た時と同じで足元が悪すぎたので、善逸さんの羽織の裾を掴む私。
それに気付いた善逸さんが後ろに向かって「ん」と手を出してきた。
手と善逸さんの背中を交互に見つめていたら、痺れを切らした善逸さんから

「危ないだろ」

と私の手を掴んできた。



こういう所はイケメンなんだよねー。

恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが入り混じって、私の心臓は鼓動を早まるのを感じる。
どうせ聞こえてるんでしょ。

はいはい、好きですよ。



山を下りても私たちはずっと手を繋いでいた。



< >

<トップページへ>