24. 派手な大男


何だかんだ歩いていたら、蝶屋敷までもうすぐそこだった。
繋がれた手を見て少しだけ寂しい気持ちになる。
炭治郎さんたちの所へ帰るのは嬉しいけど、二人きりで居たいと思うのは我儘だろうか。
思い返せばあっという間の単独任務だった。

でも、二人でいるのは緊張してドキドキするから、心臓に悪いかも。
そういう意味では帰ってきて良かったとも言える。

そんな事を考えていたら、善逸さんが立ち止まった。

「どうしたんですか?」

一緒になって立ち止まり、善逸さんの顔を見た。
善逸さんは繋いでない方の手を耳に添えて、何かを聞こうとしていた。
その顔は眉間に皺が寄っていて、よからぬ雰囲気を醸し出している。

「何か、悲鳴みたいなのが聞こえるんだ」
「え…どこから…!?」
「多分、蝶屋敷」

言うが早いか私たちは二人で駆けていた。
頭の中に広がる嫌な想像。
皆大丈夫だよね?あんな所に鬼なんて来ないよね?

屋敷が見えてきた辺りで、私の耳にも悲鳴が入ってきた。
でも、なんか…襲われているっていうか、懇願するみたいな泣き声だよね?
善逸さんが「ごめん」と言って先に駆けていく。
そして、屋敷の塀へ飛び乗った。
良く見ると、門の屋根に派手めな恰好をした大男がアオイさんとなほちゃんを担いで立っている。
女の子の悲鳴はあれが原因か!

すると大男はなほちゃんを門の下へ放り投げたのだ。

「なほちゃん…!」

慌てて私も門の下へ到着する。
門の下には炭治郎さんやすみちゃん、きよちゃんがいて女の子たちは皆泣いていた。


「何てことをするんだ、人でなし!!」


炭治郎さんがなほちゃんをキャッチしてくれたおかげで、ケガは無さそうだった。
私はその光景を見てほっと胸を撫で下ろした。


「とりあえず、コイツは任務に連れて行く。役に立ちそうもねぇが、こんなのでも一応隊員だしな」


変らずアオイさんを肩に担いだまま、大男が言う。
ただの暴漢だと思ったらこの人、鬼殺隊の人だったの!?
良く見ると背中に武器っぽいのが見える。

それより、アオイさんを任務に連れていくですって?
大男の背中にあるアオイさんの顔が真っ青になる。
駄目、そんな事させない!


「人には人の事情があるんだ、無神経に色々つつき回さないで頂きたい!アオイさんを返せ!!」
「ぬるい、ぬるいねぇ。このようなザマで地味にぐだぐだしているから、鬼殺隊は弱くなっていくんだろうな」


炭治郎さんの言葉を大男は一蹴してそう言う。
あまりの言い草に私は腹が立ってしまって、考えるよりも先に口が出ていた。


「皆さんは弱くなんかありません!!そこまで言うなら、アオイさんの代わりに私が行きます!!それでいいでしょう!?」

「名前…!?俺達が代わりに行く!!」


炭治郎さん達が私の存在に気付いた。
そして大男も後ろを振り返り、私を見る。
アオイさんと目が合い、私は安心させたくてにこっと微笑んだ。

塀からやってきた善逸さんが大男の右側から挟む形で立つ。
反対側からは今、帰宅してきた伊之助さんが居た。
大男を四方から囲み、私達は睨みつけた。

「今帰ったところだが、俺は力が有り余ってる。行ってやってもいいぜ!」
「アアアアアアオイちゃんを放してもらおうか、たとえアンタが筋肉の化け物でも俺は一歩もひひひ引かないぜ」

カッコよく伊之助さんが叫んだ後に、身体全体をガタガタ震わせて情けなく言うセリフに涙が出そうになる。
情けない…本当に情けないよ、善逸さん。
言っている事はとってもカッコイイんだけどね、だけどね?

大男の目がすぅっと細められた。
その場に目に見えない威圧感が広がる。
皆カチコチになってる。善逸さんは更に泣き叫んでる。

そして、小さくため息を吐いた大男が


「あっそォ。じゃあ一緒に来て頂こうかね」


ただし、絶対俺には逆らうなよ、お前ら。
そう言ってアオイさんを門の下へ下ろした。

カナヲちゃん、すみちゃん、きよちゃん、なほちゃんが慌てて駆け寄り、アオイさんを抱きしめる。
私もそっと近づいてアオイさんの背中をポンポンと叩く。

「…名前さん…良かったのですか?」

涙を零しながら安堵をしているアオイさんが私に声を掛ける。
コクリと頷いて「全然大丈夫!だって善逸さんも一緒だから」と言うと、アオイさんの目が伏せられた。

「あの人は、しのぶさんと同じ柱…音柱の宇随天元様です。危険な任務かもしれないんですよ?」
「柱なんだ、あの人…」

門の上の野郎どもに目を向ける。
まだ三人と何か言い争いをしている中心の大男。
柱と言われれば近寄りがたい雰囲気ではあるけれど、派手過ぎないだろうか?
特に左目に入れられた刺青とか、絶対堅気の人に見えない。
しのぶさんはともかく、煉獄さんも見た目結構派手だったし、そんなものかな?


帰ってきて早々だったけど、何日分の旅準備をして、私達は宇随さんについていくことになった。


「何で勝手に任務に行くとか言うんだよ!危ないだろ!!」


荷物の準備をしている間、ずっと隣で善逸さんが私にブチブチ怒っている。
そんな事を言われても仕方ないじゃない。
アオイさんを連れて行って欲しくなかったし、女であればいいなら私でもいいじゃない。

「善逸さんだって行くつもりの癖に…」
「名前ちゃんが危ないって言ってるんだよ!大体あの人柱なんだよ!?柱が出る任務って危険でしょうが!!」
「……」

荷物を纏めていた手を止めて、善逸さんを見る。
善逸さんの後ろでは炭治郎さんが「まあまあ」と善逸さんを宥めようとしていたけど、完全無視だ。


「善逸さんが守ってくれるんでしょ!!」
「守るけど、守るけどさ!!」


善逸さんに負けじと私も声を張り上げる。
お互い一歩も引かずに暫くにらみ合って、ふん、と同時に顔を背けた。


「面倒臭せぇ奴らだな」


伊之助さんが私達を見てぽつりと呟いた。



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