25. 神


「オイ、お前隊員じゃねーだろ。死んでもしらねえぞ」


険悪のムードの中、準備を終えて門の下で待っていた宇随さんの所へやってくると、開口一番そう言われた。
何を今更。最初から分かっていたんじゃないのか。
面倒臭そうな顔をして「帰れ」と言われたけど、私はブンブン首を振る。

「死にません。行きます」
「意味わかんねぇ。コイツ馬鹿か?」

何と言われても私は行く気だ。
諦めた顔で「死んでも知らねえからな」と言われてため息を吐く宇随さん。
だから最初から行くって言ってるじゃん!!

後ろの善逸さんも物言いたげにこちらを見ている。
絶対ついて行くもんね!!べー。
善逸さんにだけ、舌を出してみると明らかにムッとした顔をしていた。




蝶屋敷の塀沿いに歩いて、宇随さんについていく私達。
伊之助さんが前を歩く宇随さんに向かって口を開いた。

「で?どこ行くんだオッさん」
「日本一、色と欲に塗れたド派手な場所」

宇随さんがそう言って振り返る。
炭治郎さんと伊之助さんがぽかんとして首を傾げている。
私は何となくわかってしまって、隣の善逸さんに目をやると何かを察したような顔していた。
あ、あんたも知ってるんだ。へー。へぇ?



「鬼の棲む、遊郭だよ」



やっぱり、と思ったけど。
漫画とか本の知識でどういう場所なのかは分かってる。
私は目をすうっと細めた。
何故なら、隣の金髪が顔を真っ赤にして口元を緩めたからだ。

「遊郭?」

炭治郎さんが聞き返す。
それを善逸さんが真っ赤な顔で「ほら、あれだよ、あれ」とかなーり遠回しに説明していたけど、それでは分かんないだろうね。
はあ、と小さくため息を吐いた。

「男ってほんと…馬鹿だ」

金髪に言ったつもりだったけど、彼は聞いていなかった。
いいよ別に。覚えてろよこの金髪。


「いいか?俺は神だ。お前らは塵だ!まず最初はそれをしっかりと頭に叩き込め!!ねじ込め!!」


宇随さんがポージングしながら突然俺はゴッド宣言をする。
本当に意味が分からない。
呆れた顔でそれを見ていたら、話は続いた。

「俺が犬になれと言ったら犬になり、猿になれと言ったら猿になれ!!猫背で揉み手をしながら俺の機嫌を常に伺い、全身全霊でへつらうのだ」

「はぁ…」

「そしてもう一度言う、俺は神だ!!」

柱になる人っていうのは特別な人だと思っていたけど、頭の出来も人と違うようだ。
私には全く理解が出来ないけど。
ちらりと他三人を見たけど、私と同じ顔をしているのは善逸さんだけだった。
顔、その顔、やめなさい。
善逸さんは露骨すぎる。

突然、炭治郎さんが勢いよく手を上げる。
そして「具体的には何を司る神ですか?」と至極真面目な顔で宇随さんに問う。

うわぁ、この人真面目過ぎてやばい。
善逸さんの目が死んでいる。
やめなさい、その目は。気持ちはわかる。

「良い質問だ。お前は見込みがある」

そう言って腕を組んでコクコクと頷く宇随さん。
私には全く理解できない。
大事な事なのでもう一度言う、全く理解できない。


「派手を司る神…祭りの神だ」


顔に手を添えてキリっとした顔で言う宇随さん。
やばい、私、ついてきたのは間違いだったかもしれない。
そんな事を考えていたら、今度は伊之助さんが話し始める。

「俺は山の王だ。よろしくな祭りの神」

もう駄目だ。
このメンツにまともな人はいない。
金髪は若干常識人だけど、それ以外最悪だ。



「何言ってんだ、お前。気持ち悪い奴だな」


キモイ、キモイと伊之助さんに言い放つ宇随さん。
私は大変驚愕したが、まともな思考はこの際するもんじゃないなと思いなおす事にした。
もうこの人達にはついていけない。馬鹿に徹しよう。



「花街までの道のりの途中に藤の家があるから、そこで準備を整える」


ほんとどうでもいい会話が終了したと同時に、宇随さんが任務についての話を始めた。
遊郭なんて本当に漫画の世界でしか知らないけど…。
っていうか、吉原のことだよね?確かあそこって女人禁制とかではなかっただろうか?
私、入っても大丈夫なのかな?

「付いて来い」

もんもん考えていたら、突然宇随さんが消えた。

「えっ?消えた!!」

善逸さんが驚いて声を上げたけど、皆そうだ。
一瞬で消えてしまった、どこに…?

「あ!!はや!!もうあの距離、ゴマ粒みたいになっとる!!」

よく見ると道のかなり先に宇随さんが走っていた。
早すぎる。私にはわかる。とてもじゃないけど追いつけない。
善逸さん達も走り出したけど、これはまずい。
他三人はともかく、私には無理かも。


「ったく、おっせーな。オイ、行くぞ」


勢いよく風の音が聞こえたと思ったら、目の前に宇随さんが居た。
もう戻ってきたの!?早すぎる、なんて人だ。
吃驚して固まっていたら、宇随さんが私の腰に手をあて、そのまま肩に担いでしまう。



「え、え、ええぇぇ!?」
「口閉じて黙ってろ」
「名前ちゃ、」


善逸さんが担がれた私を見て声を上げたけど、あっという間に私は宇随さんと共に善逸さん達から離れてしまった。


「う、わぁああ!!助けて、人さらい!!」
「お前、落とすぞ」


到着するまで私は宇随さんの上で泣き叫ぶことになった。



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