03. 鬼ごっこ


四人で仲良く歩いていたら、結構大きい街に着いた。
街灯がその辺にあって明るいだけで私のテンションはマックスだ。
心なしか街を歩いている人達の服装も、レトロでお洒落な恰好である。
羨望の眼差しでキョロキョロしていたら、善逸さんに着物の袖を引っ張られてしまった。

「どこ見てるの?前見て歩かないと人にぶつかるよ」
「だって、何もかもお洒落過ぎて見るのに忙しいんです!」
「ああ、そう」

あっさりと呆れられてしまったが、私は物凄く楽しい。
なんとか三人の後についていくが、確かに人は多くなってきた。
この時代に来て初めてこんな人混みの中に入ったなぁ、なんて思ってたら段々炭治郎さんたちが見えなくなってきた。
あ、やばい。迷子になっちゃう。

「ちょ、あ、ぜ、善逸さん…助けて!」
「馬鹿じゃない?ねえ、馬鹿でしょ」

人混みに揉まれどうすることもできなくなってしまった。
両手を高く上げてここにいるよアピールをすると、気付いてくれた善逸さんが私の手を掴んだ。
ほっと胸を撫で下ろし、一息吐いた。

「前見て歩いて」
「…すみません」

珍しく善逸さんに窘められて、私はシュンとしてしまう。
大人しく善逸さんの手に捕まったまま移動する事にした。

炭治郎さんと伊之助さんは少し歩いた所で待ってくれていた。
本当にごめんなさい。

合流して少し歩くと、人通りの多い駅へと到着した。
なるほど。大正時代って列車があったんだね。
何だか現代に近い乗り物を見ると、少し嬉しくなってしまう。

「えーっ!まだ指令来てなかったのかよ!!居てよかったじゃん、しのぶさんちに!!」

炭治郎さんから「任務の指令は来てないよ」と聞かされた善逸さんは怒りのまま、炭治郎の肩をポカポカと殴り始めた。
そんなに出て行きたくなかったんだね。ほんとどうしようもない人なんだけど。
「…いや指令が来た時、動きやすいように…あと炎柱の…」と殴られながら必死で炭治郎さんが弁明をする。
全くもってその通りすぎて申し訳なくなってくる。

「バカバカバカァ!!」と未だポカポカしている善逸さんの腕を止めて「まあまあ」と間に入ると今度は伊之助さんが声を上げた。



「何だあの生き物はー!!」


伊之助さんが停車している汽車を見ながら、わなわなと震えていた。
あ、列車見た事ないんだ。
初めて見たら生き物に見えるんだね。
へえ、と納得しながら伊之助さんに「あれは汽車ですよ」と答えたけど、全然理解してないようだ。

「こいつはアレだぜ、この土地の主…この土地を統べる者」
「え、なに?」
「この長さ、威圧感、間違いねぇ。今は眠っているようだが、油断するな!!」
「いや、汽車だよ。知らねぇのかよ」

プルプルして汽車に慄く伊之助さん。
善逸さんが鋭い突っ込みを入れたけど、本当に理解していないわ、この人。

「シッ、落ち着け!!」
「いや、お前が落ち着けよ」
「まず俺が一番に攻め込む」

攻め込む、という物騒な言葉が聞こえたので、私は慌てて伊之助さんの肩を掴んだ。

「違いますから。そういうのじゃないですから。ただの汽車ですから」

善逸さんと二人で呆れながら言うと、炭治郎さんが後に続いた。


「この土地の守り神かもしれないだろう。それから急に攻撃するのも良くない」


無駄にキリっとした顔で炭治郎さんが言う。
あなたもか。

「いや汽車だって言ってるじゃんか。列車、わかる?乗り物なの、人を運ぶ」

私と同じような顔した善逸さんが炭治郎さんに言い放つ。
そしてボソッと「この田舎者が」と悪態吐いた。
申し訳ないけど、私も完全に同意だ。

「ん?列車?じゃあ、鴉が言ってたのがこれか?」
「鴉が?」

ポンと手を叩いて一人納得した炭治郎さんが言った。
善逸さんは首を傾げてそれを見ていた。
その時私は完全に炭治郎さん達に気を取られていて、猪の存在をすっかり忘れていた。

「猪突猛進!!」

突然、列車の側面に向かって頭突きをかます伊之助さん。
ドンと鈍い音がそこら中に響いた。

「あー!!恥ずかしいから止めてください!伊之助さん」

大慌てで伊之助さんの腰を掴み、止めに入る私。
良く見ると辺りに人だかりが出来ていた。
ほら、皆見てるじゃん!恥ずかしいじゃん!何もしないでお願いだから!

遠くの方で笛の音が鳴った。
ピピーっと聞こえてくるそれは、制服を身に纏った男の人達で「何をしてる貴様ら!!」と大声を張り上げながら近付いてくる。
いち早く気付いた善逸さんが「ゲ」と青ざめ、私の手を掴むと駆けだした。

「あっ、刀持ってるぞ…!!警官だ、警官を呼べー!!」

皆の腰に付いている刀に気付いた男たちが叫ぶ。
そう言えば刀もダメだった!

私達に続いて、ぽかん顔の炭治郎さんと挙動不審の伊之助さんが走ってきて。
結局四人で人混みに紛れながら、男たちを撒くまで相当時間がかかってしまった。




――――――――――――



「あー、鬼ごっこって久しぶりでした」


駅の待合室に逃げ込んだ私たちは、乱れた息を整えて列車が出るまで隠れる事にした。
久しぶりにかいた汗を拭いながらそう言うと、善逸さんはまた呆れたように「捕まったらほんとにしょっ引かれる奴だけどね」と答える。

「政府公認の組織じゃないからな、俺たち鬼殺隊」

急に真面目な顔をして善逸さんが言う。

「堂々と刀を持って歩けないんだよ、ホントは。鬼がどうのこうの言っても、なかなか信じてもらえんし、混乱するだろ」
「皆さん、一生懸命頑張っているのにね」

炭治郎さんと一緒にショボンとした顔で俯いていると「仕方ないよ。取りあえず刀は背中に隠そう」と善逸さんが腰の刀を下ろした。
素直に炭治郎さんもその言葉に従う。

「これでいいかァ!?」

伊之助さんが人一倍大きな声で叫ぶ。
腰の刀を背中に刺しているのはいいんだけど、元々上半身裸だから丸見えです。

「丸見えだよ、服着ろ馬鹿」
「だからその恰好は悪目立ちするって言ったじゃないですか!!」
「うっせぇ!お前らの言う事なんか聞くかバーカ!!」

列車に乗るまでに私達、仲が悪くなりそうです。



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