04. ズルい


猪とグダグダ言い合ってたら列車がやってくる時間になってしまった。
慌てて私達四人は列車へと乗り込む事にした。
炭治郎さんの話ではこの“無限列車”というのに柱の一人である煉獄さんが乗っており、その方に用事があるんだそうだ。
列車で移動する旅って、なんだかワクワクするな。
窓から見える景色が現代と違うだろうから、私はこっそり心躍らせていた。
横目で善逸さんを見たらバッチリ目が合ったので、早速バレてる!


「うおおおお!!腹ん中だ!!」


列車に乗り込んで早々、興奮した猪が叫び出す。
他のお客さんがぎょっとした顔で一斉にこちらを見たのが分かった。
もう、ね。ほんとやめて欲しい。
恥ずかしいから、この人達と行動するのをやめたくなる。

「主の腹の中だ、うぉおお!!戦いの始まりだ!!」
「うるせーよ!!」

善逸さんが早速猪を止めに入る。
今日は何だか善逸さんが常識人の様に見えるな。
女の子がいないだけでそう感じるから不思議だ。

「ところで、柱だっけ?その煉獄さん。顔とかちゃんとわかるのか?」
「うん、派手な髪の人だったし、匂いも覚えているから」

客席の間をトコトコ歩きながら善逸さんが聞いた。
煉獄さんって、特徴ある人なんだね。
でも、貴方たち三人も目立つ頭してるよ。特に金髪。

「だいぶ近付いて……」

そう言って炭治郎さんが前の客席に目をやった時だった。
前方から「うまい!うまい!」とそこそこデカい声で叫ぶ声が聞こえる。
猪以外の三人で思わず声の方へ目を向けると、なるほど確かに頭の色が派手な方がお弁当を食べていた。
少なくとも、この人が煉獄さんではなかろうか。

「善逸さん、あの人がもしかして…」

私が善逸さんに尋ねると、善逸さんも同じ事を思ったのだろう。

「あの人が、炎柱?ただの食いしん坊じゃなくて?」
「……うん」

私が聞きたかった事を的確に炭治郎に尋ねていた。
その間もひたすら「うまい!」を連呼しながらお弁当を貪り食っている。
異様な光景に私はこっそり善逸さんの背中へと隠れる事にした。

「あの、すみません……」
「うまい!」
「れ、煉獄さん…」
「うまい!」
「あ、もう、それはすごくわかりました」

キラキラした目お弁当を食べる姿にくすっと笑ってしまった。
炭治郎さんに声を掛けられてもなお、お弁当を食べている姿は中々面白かった。
煉獄さんは駅弁が好きなようだった。
一人で何箱もお弁当を食べつくしていたようで、乗務員さんたちが大きなゴミ袋と共に回収して行ってくれた。
丁度、煉獄さんの隣の席が空いていたのと、通路を挟んだ隣の席も空いていたので、
私と善逸さん、あと猪が通路横のボックス席へと座る事になった。
炭治郎さんは煉獄さんに用があるみたいだから、煉獄さんの隣。

暫くお弁当のうまさについて語っていたようだが、炭治郎さんが本題を切り出し、二人で何やら話し込んでいた。
私達は特にすることもないので、伊之助さんと共に窓の外に目を向けていた。

「楽しみですね、伊之助さん」
「はぁ!?別に楽しみじゃねーし!!」
「ホントですか?さっきから身体が揺れていますよ」

まだ動いていない列車の窓を見ていたので、落ち着かなかったのだろう。
猪の身体は上下に揺れたりして、隣の善逸さんが迷惑そうだった。
あまりに揺れるから、善逸さんが私の横へ座り直したくらい。

するとガタンと音がなり、列車が少しずつ動き始めたのが分かった。

「あ、動きますよ。ほら、伊之助さん景色が動きますよ」

窓の外を指さして教えてあげたのがいけなかったのだろうか。
猪は勢いよく窓を開けたかと思うと、

「うおおおお!!すげぇすげぇ速ぇええ!!」

上半身のほとんどを窓から出してしまった。
驚愕している暇はなく、私と善逸さんが伊之助さんの腰を掴む羽目になった。

「伊之助さん、落ちちゃう!」
「危ない馬鹿この!!」
「俺、外に出て走るから!!どっちが速いか競争する!!」
「馬鹿にも程があるだろ!!」

まるで子供の戯言のような事を言いながら、きゃっきゃしている伊之助さん。
この人と列車に乗ったのは、やっぱり間違いだったんじゃないだろうか。
善逸さんもこの数分で顔がげっそりしている。
疲れるよね、猪の相手。


「危険だぞ、いつ鬼が出てくるかわからないんだ!」


私達三人を見ながら、煉獄さんが声を掛ける。
その言葉に伊之助さんの腰を掴んでいた善逸さんが、手を離した。

「え?」
「あぁ、離さないで下さいっ!」

なんとか猪を列車の中へ戻す事が出来て、一安心。
ふう、と一つため息を吐いたら、隣の善逸さんが顔を真っ青にして座っていた。
あ、まずい。これはいけない兆候である。
猪の次は金髪か、と私がフォローに入ろうとした時、善逸さんが口を開いた。

「嘘でしょ、鬼出るんですかこの汽車!!」
「出る!!」
「出んのかい嫌ァーーー!!鬼の所に移動してるんじゃなく、ここに出るの嫌ァーーー!!」

この世の物とは思えない顔で急にこちらを見た善逸さん。
「俺たち、降りる!」と私の右手を掴んだ。
え、ちょっと待って、降りれないよまだ。

「短期間のうちにこの汽車で四十人以上の人が行方不明となっている。数名の剣士を送り込んだが、全員消息を絶った!だから柱である俺が来た!」
「はァーーッ、なるほどね!!降ります!!」

ぎゅうっと力強く私の右手を握って号泣する善逸さん。

「いいじゃないですか、みんないらっしゃるんだから。きっと大丈夫ですよ」

ポンポンと頭を撫でてやったら、少しマシになったけど、ぐすんぐすんと横で鼻水を垂らしている。
慌てて着物の袖からチリ紙を取り出して、善逸さんに渡した。
ほんと次から次へと忙しいな。

「俺より名前ちゃんの方が大丈夫なの?」
「え、わたし?」
「本当に鬼が出たら逃げ場なんて無いんだよ」

死んだらどうするんだよー!と私の肩を揺すりながらまた泣き始める金髪。
もう面倒臭いな。



「善逸さんと一緒ですよ。死ぬときは一緒に死にます」



だから、頑張って守ってください。

なるべく不安になせないように、にこっと微笑んだ。
指でそっと善逸さんの涙を拭ってあげると、善逸さんは少しだけ顔を赤らめた。




「……そういう所がズルいんだよ」



よくわからないけど、口を尖らせて善逸さんは言った。



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