俺もただの男だって気づいてたんでしょう?


早苗ちゃんに案内されて、俺達は各々の部屋で過ごす事となった。
やっと二人になれると思ったら名前ちゃんはさっさと「別々の部屋で」なんていうから。
苦々しく隣へ通ずる襖を睨みつける。
いつも蝶屋敷でさえ、二人になれる機会は少ないというのに。
こういう時くらいいいじゃないか。

そりゃ任務だって言う事は理解しているし、鬼が潜んでいるかもしれないけどさ。
天井を見上げて俺はため息を吐いた。

今日は名前ちゃんの機嫌が悪いし。
まあ、原因は何となく分かってはいるけど。

俺は諦めて瞼を閉じる事にした。


視界が遮られるとはっきりわかる。
隣の部屋の音。
なんか聞こえは悪いけど、こっちだって聞こうとして聞いてるわけじゃない。
やたら名前ちゃんがゴソゴソしているのが悪いんだ。
俺は自分に言い訳をしつつ、結局耳を大きくして隣の音に集中してるんだけさ、仕方ない。

あー眠れないんだな。
何かイライラした音とモヤモヤした感じがする。
挙句に布団の上でゴロゴロしてるし。
そんなに眠れないなら、こっちに来たらいいのに。

あとで隣の部屋を覗いてみようかな。
前みたいに嫌がるかな。
でも、あの時とは二人の間柄も変わったし、歓迎…はしてくれなくても、名前ちゃんなら許してくれそうな気がする。


さて、どうしよう。


なんて考えていたら、名前ちゃんが意を決したように動き始めたのが分かった。
そして襖が僅かに開かれた。
名前ちゃんから来たよ…。


「善逸さん、起きてますか?」


起きていたけど、ね。
どっかの誰かさんの事を考えてて。
名前ちゃんの二つの目が襖の隙間から覗かせている。


「…それって、普通開ける前に聞かない?」
「どうせ音で私が起きてるの分かってたでしょ」
「名前ちゃんが寝れなくてゴロゴロしてる音までバッチリだったよ」
「……」


思わず呆れた声を上げてしまったけど、正直心は踊っている。
ドクンドクンと高鳴り出した鼓動を抑えるにはどうしたらいい?
彼女は結局普通に開けて、こちらの部屋に侵入してきた。
ああー。もう全部名前ちゃんの所為だ。

俺は色々考える事を放棄した。




「ほら、やっぱり同じ部屋で良かったじゃん」



どうか彼女にこの鼓動の音がバレませんように。







「善逸さんは違和感を感じなかったんですか?」
「違和感と言えば違和感だけどさぁ、今のところ鬼の音もしないから何とも」


布団の上で、俺と向かい合う名前ちゃん。
何故か名前ちゃんは枕を持参してきていて、それを抱いて座っている。
それってさ、聞かないけどさ、ここで寝るつもりですか?
本当は聞きたくてたまらないけど、俺は自分の精神状態を抑える事で必死だ。


「早苗さんも何か変なんですよね、ここが限界集落だからかな…」


そんな俺を余所に、名前ちゃんは考え込むように言った。
うーん、俺にはよくわからないけど、変と言えば変か?


「可愛いよね、早苗ちゃん」
「誰もそんな話してませんけど?よくも私の前でそんな会話出来ますね?」
「痛っ、痛いから!摘まないで!」


何にも考えずにポツリと呟いたら、急に目を吊り上げた名前ちゃんが俺の太ももを抓ってきた。
いや、違うって!!そういう意味じゃ、ない事もないけど!!
思っただけじゃん!!

痛みで涙目になった俺と目の据わった名前ちゃんと目が合った。
あ、やべ、めっちゃ怒ってる。
名前ちゃんの音が大きくなり、俺にそれを教えてくれる。


「大体、ずーっとデレデレし過ぎじゃないですか?何考えてるんですか、ほんともう」


ツン、と口を尖らせた名前ちゃん。
俺はそれをぽかんとした様子で見ていたけど。
あ、それってもしかして嫉妬ですか?
え?俺の為に嫉妬してるんですか?この娘。
急に理解してしまったら、口元が緩んでしまった。

それを見た名前ちゃんが怪訝な顔をする。


「なんです、その顔」
「いや…名前ちゃんが嫉妬してくれたんだーと思って」
「……ほんとウザイ」

ウザイと言ってすぐに持っていた枕を俺に投げつける名前ちゃん。
来ると思っていたから、華麗にそれを受け止める。
それを見て頬を膨らませた名前ちゃんが可愛いすぎて、もう…。
あー…わざとか、この娘。
そんな事はないんだけど、そう思っても仕方ない。
こんなに俺を動揺させるような事ばかりしてくれて。
どういうつもりだ。

急に何故か名前ちゃんの視線が泳ぐ。
その姿が余計に俺を追い詰める。
は?は?可愛いんですけど、何なのこの娘。


「名前ちゃん?どうしたの?」


意地悪する子みたいな聞き方をしたけど。
だってそんな顔するんだからさ、少しくらいいいだろ。
俺はもう破顔した顔を取り繕う事もしないで、名前ちゃんににじり寄っていく。


「何で寄って来るんですか…」


俺が近づいてきている事に気が付いた名前ちゃんが後退する。
でも俺もその分近付いていくから、結局逃げる事は出来ない。
その姿がまた可愛くて、俺はくすっと笑ってしまった。


「だって、名前ちゃんが逃げるから」
「逃げますよ、そりゃあ!」


少し大きな声を上げて顔を真っ赤にする名前ちゃん。
はあ、もういいよね。
俺、もう無理だ。

小さい肩を掴んで、ぽんと後ろへ倒した。
あっという間に彼女は畳の上に倒れる。

逃げないように彼女の顔の横に手を置いて、俺は顔を近づけた。
彼女に身体が密着していく。

「俺、言ったよね?」
「な、なにを…」

少し動揺している声で名前ちゃんが尋ねる。


「嫁入り前の女の子が男の部屋に来るなって」
「善逸さん今回は何も言ってないじゃないですか」


いう訳ないだろ。
こっちはそれを望んでいるんだからさ。




「そりゃあさ、俺だってその方が都合いいし」



名前ちゃんの顔に指で触れ、俺は耳元で囁いた。

びくりと跳ねた身体に気付いてしまって、俺ももう我慢するつもりはない。



「ぜん、い、んぅ」



開こうとしていた小さな口を塞いでしまう。
一瞬彼女の手が俺の胸板を押したけど、退くつもりはない。
当たり前だろ、こんなの無理だ。

逃げようとする顔を手で掴んで、俺は何度も口づけを落とす。
一旦止めて顔を見たら、潤んだ瞳と目が合った。


「ぁ…」


息の上がった彼女に色気を感じて、俺ももう駄目だ。
身に纏っている浴衣が邪魔だ。
肩からそれを脱ごうとした。

突然そこで俺の天国は終わりを告げたのだ。



「我妻さん、起きてらっしゃいますか?」



襖の向こうから、早苗ちゃんの声がした。

は?
嘘、だろ?
ここで?


俺は大混乱して気持ちの整理がつかない。
取りあえず、適当に取り繕うけど、俺はもうその気だったんだ。

絶対、次は邪魔させない。

固く胸に誓いを立てた。





でも、これで彼女には俺が男だって気付いてもらえただろ。











atogaki
七篠権兵衛さま、リクエスト有難うございました!
遅くなって申し訳御座いません!
長編:善逸さんと〜内「狼さんこちらです」の善逸君視点をご希望でしたが、いかがでしたでしょうか?
これは私も本編で書く予定だったのに、続きを考えてしまっていたら、すっぽ抜けていたというアレです。
リクエストという形で書かせて頂けるなんて、本当に幸せでした。
長編の方ももう少ししたら、結構イチャイチャさせますので、
どうかそちらも合わせて楽しんで頂けると幸いです^^
この度は誠にありがとうございました!

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