正直こういう展開を待ってました


「ねぇねぇ、炭治郎!さっきの善逸見た?もう可愛すぎて見てられなかったー!!」


両頬に手を当てて、もじもじ身体を揺らしてこの想いの丈を炭治郎に伝えてみる。
炭治郎は困った顔をしたけど「そ、そうか」と理解をしてくれて、私の話を聞いてくれた。
先程の任務で善逸がトドメをさしたんだけど、頸を落とした後に目が覚めて、腰を抜かしちゃったんだよね。
可愛すぎて可愛すぎて、私の心臓がバクバクうるさくて。
必死に善逸の前でそれが出ないようにして、炭治郎と二人になる今まで我慢していた。

私達の前には善逸と伊之助が少し離れた所を歩いている。


「はぁー!なんで善逸ってあんなに可愛いんだろ、女の子よりも可愛い」
「それを言われると多分、善逸は喜ばないと思うぞ」
「炭治郎にだけしか言ってないじゃん!!」


片腕をぶんぶん回して善逸の可愛さの度合いを表現してみた。
炭治郎の顔色があまり良くないのはなんでだろう?
まあ、いっか。とりあえず、喋りたい事はこれだけじゃないんだよね。


「鬼を倒す時なんか、本当にカッコ良い…もう、世の中の女の子が見たらみんな惚れるくらい」
「は、はは…」
「炭治郎もそう思わない?」
「さぁ?俺は男だから…」


煮え切らない態度で炭治郎は苦笑いをする。
そうだよね、炭治郎は男の子だもんね。
こういう事はやっぱり女の子に聞いてみなくちゃ分からないか!
帰ったらカナヲに聞いてみよーっと。

私は鼻歌を歌いながら、蝶屋敷までの道のりを歩いた。
任務後で疲れていようとも善逸の話をしている時は別だ。
こんなに善逸の事を考えていると、頭の中がふわふわして温かい気持ちになるけれど、
それを善逸に伝えた事は無い。
あんなにカッコよくて可愛い善逸に、私なんかが「好き」なんて言った所で思いが通じるなんて思えない。

だから、今はまだ陰からこっそり見ているだけ。
炭治郎と伊之助は気付いているけれど、本人には知られるわけにはいかない。
私の片思いを失恋にしないように、日々善逸について考えるだけ。

その時、先を歩く善逸が後ろを振り返った気がしたけど、気のせいかな?




―――――――――――――――――



「カナヲ、ちょっとお茶しよ!」
「え、うん…名前、どうしたの?」
「お話したい事あるんだー!」


帰ってきて早々、私は部屋でゆっくりしていたカナヲを捕まえて、お茶の約束を取り付けた。
炭治郎はそんな私を見て「元気だな」と言っていたけど、善逸の事を考えていたら、居てもたってもいられない。
「話したい事がある」と言った時、カナヲの顔が一瞬呆れたような顔になったけど、どうしたんだろう?



隊服から普段の着物にさっさと着替えて、カナヲの部屋へやってきた私。
手には帰りに見繕ってきた美味しそうなおやつもある。
これでお茶の準備はバッチリだ。
部屋へ入ると、何とも言えない顔でカナヲが待っていた。
ちゃぶ台の上におやつを並べて、私は早速本題へと入る。


「今日の善逸がかっこよくて、可愛かったの!!」
「…そうだろうと思った。名前はとっても強いのに、好きな人の話になるといつもそうだよね」
「カナヲにも善逸の良さが分かる!?炭治郎に聞いてもあんまり反応良く無かったんだ…」
「正直、良さが分かるのは名前だけだと思う」


ずずずとお茶を啜るカナヲ。
えー?どういう意味だろう?
ポリポリと買ってきた煎餅を口に入れて、首を傾げた。
炭治郎と似たような顔をしてカナヲは「私には全然わからない」と言った。
カナヲにもわからないかー。残念。


「そこまで好きならいっそ想いを伝えたらいいのに」
「む、無理無理!!そんな事できないよ、だって私だよ?善逸だって迷惑だと思う…」
「名前は可愛いし、素直ないい子だから大丈夫だよ」
「そんなの分からないよ…カナヲは炭治郎に想いを伝えたの?」


ブフっとカナヲがお茶を吹き出す。
慌ててハンカチを差し出すと、黙って受け取るカナヲ。
その顔はりんごのように真っ赤だ。
炭治郎の話をするとカナヲって本当に可愛い。
私もカナヲみたいに可愛かったらよかったのに。
ズキン、と胸が少しだけ痛んだ。

いつか、私に自信が持てるようになって。
善逸にこの思いが伝えられる時が来たのなら。
でもあんなに素敵な人を他の女の子がほっとく筈がない。
その時、私はこの気持ちに蓋をする事ができるだろうか?


「……ごめん、やっぱり部屋に戻るね」
「どうしたの?」
「うーん、何か疲れが出ちゃったみたい」


考えたくない事を考えてしまって、気持ちが落ち込んでしまった。
カナヲに心配かけたくなくて、適当な事を言って私は部屋を後にした。



自分の部屋に戻るつもりだったけど、何も考えたくなくてそのまま道場へ向かった。
素振りの一つでもしていれば、精神も安定するでしょ。
きっとこの時間なら誰もいないだろうし。

そう思って道場へ入った私の目に飛び込んできたのは、さっきまで私の心の中を独占していた人だ。


「あ、名前」


善逸が私を見てぽつりと零す。
湯沸かしのように私の顔が段々熱を持っていく。
会いたくないわけじゃないけど、今会いたくなかった!
いつもは道場になんて寄らない癖に、何で今日は居るの!!


「ぜ、善逸が道場にいるなんて珍しい、ね?」

なるべく違和感ないようにそう言うと、少しむっとした顔で善逸がこちらを見た。
気に障る事を言ったのかな、どうしよう。

善逸の邪魔にならないように端の方へ移動しようした。
だけど善逸が「こっちに来たら?」と言ったから、移動も出来なくて。
仕方なしに、善逸が立っている前にちょこんと座ってみた。
善逸の手には木刀があって、さっきまで素振りをしていたことが分かる。
実は善逸は凄い努力家なんだ。
それを皆に知られるのを嫌がっているのを私は知っている。

はぁ、カッコイイ。

決して表情には出さないで、見上げるように善逸を見た。
不思議そうな顔で善逸がこちらを見る。


「どうしたの?」
「えっ!?な、何が!?」
「こっち見てるから」
「み、み、見てないよ?」


バレバレの嘘で誤魔化したけど、無意味だと思う。
顔が赤くなってるだろうから、善逸にも分かっちゃうかもしれない。
はあ、もう消えたい。
自分の顔を隠すように顔を背けると、善逸が小さくため息を吐いたのが分かった。
面倒臭い女の子でごめん。

カラン、と木刀がその辺に置かれる。
そして善逸が何故か私の横に座り出したのだ。

「え、ぜ、善逸?」
「何?」
「鍛錬は?」
「まぁ、もういいかなって」

はぁ。いう事がいちいちカッコよくて死にそう。
しかも隣に座られて私の心臓はドクドク五月蠅い。
善逸に聞こえてる、よね?
きっと今の私は耳まで真っ赤だ。

善逸の目が私のそれと合う。
吸い込まれそうな瞳だ。


「名前、俺に言いたい事ない?」


善逸の言葉に思わずきょとんとしてしまった。
え、どういう意味?
意味が分からなくて善逸に尋ねる私。

「どういう意味?」
「無いならいいんだけど。俺は名前に言いたい事あるんだよね」
「え、え…?」

真剣な顔でそう言われると、胸が痛い。
何だろう、言いたい事って。
もしかしてずっと陰から見ていたのを知っていた、とか。
気持ち悪いって思われてたら、どうしよう。

よくない想像が頭を駆け巡る。
そんな私を余所に善逸が口を開く。

「俺さ、ずっと名前が俺の事見ていたの、知ってるよ」
「ひ、え…」

考えていた事と同じ事を言われてしまい、私は真っ青になった。
バレてた…!ずっと見てたのバレてた!
恥ずかしいのと、善逸に嫌われているのとで私の胸がズキズキと痛む。

「あ、別に嫌ってるわけじゃなくて」
「へ…」
「これからはこそこそ見るんじゃなくて、堂々と見て欲しいっていうか…」

急にモゴモゴと喋りづらそうにする善逸。
え、え?
どういう意味なの?さっきから善逸の言う事がよくわからない。


「炭治郎とかとあんまり話してほしくない、し」
「それって?」


勇気を出して尋ねてみる。
そうすると、うっすら頬を赤らめた善逸がこちらを見た。
あ、可愛い。





「だから、好きなんだよ!!名前のこと!」





一瞬で暗い気持ちが晴れていく。
遅れて私はどんどん体温が上昇していくのが分かった。
暗くなったり赤くなったり今日は忙しい。


ぶっちゃけ、こういう展開が来ることを望んでいた私がいる。

取りあえず、この可愛くてカッコイイ人に抱き着く所から始めようかな。











atogaki
れーさま、リクエストありがとうございました!
善逸のことが馬鹿みたいに好きだけど気持ちが伝えられない善逸よりめっちゃ強い鬼殺隊の女の子の話という事でリクエスト頂いておりましたが、いかがだったでしょうか?
ただの善逸ファンの子が出来上がってしまいました。
こんなものでよろしければお納めくださいませ。。。
二つ目のリクに関しても明日以降対応させて頂きますので、もう少しお待ちいただけると幸いです^^
この度は本当にありがとうございました!

お題元「確かに恋だった」さま

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