かわいいおんなのこ


単独任務の帰り、偶には二人でお茶したいななんて思って、甘味処に入ったまでは良かった。
甘いものが大好きな善逸さんなら、きっと選べないんじゃないかなーって思ったんだけど。
本気で真剣に甘いモノを選んでいる姿は、普段のふにゃふにゃな姿とはかけ離れていて、私はくすりと笑ってしまった。


「何?」
「凄く楽しそうですね」
「ま、まあね」


怪訝そうな顔で私を見る善逸さん。
でも口元、ちょっと緩んでますよ。
本当は嬉しいんでしょ?
私も嬉しいですけどね、二人で甘いモノ食べれて。

店員さんを呼んで、選びに選んだ甘味を注文して私たちは出てくるまで大人しく待つ。
待っている間も善逸さんは少し楽しそうだ。
まるで女の子みたい。この時代にスマホがあったら、インスタ映え男子と化していたんじゃなかろうか。
頭の中の想像にふふ、と笑うと更に怪訝そうな顔がこちらを見た。

「何?」
「いえ。楽しそうだなって」
「さっきからそればっかなんだけど、名前ちゃん」
「いいじゃないですか。楽しそうな善逸さんを見れて私も満足です」

ね?と首を傾げて言うと、ぐ、と言葉に詰まる善逸さん。
善逸さんはストレートに言われると照れるから、そういう顔を見るのも私は楽しい。
特に今日は二人だけだから。
今日の任務ではケガらしいケガをしなかったから、こうやってゆっくり出来ている。
いつもこんな任務ばかりだといいんだけど。
そういうわけにはいかないよね。


「美味しかったら皆さんにもお土産買っていきましょ」
「えー…勿体ないって」
「まあ、確かに伊之助さんの胃袋に収めるのは勿体ない気がしますけど」


出されたお茶をずずずと頂きながら、脳内で伊之助さんが食べている所を想像する。
天ぷら以外のモノの違いを理解してないかもしれない彼に、甘いモノは果たして気に入ってくれるだろうか?
まあ、無理だな。やめとこ。


「善逸さんは何を頼んだんでしたっけ?」
「俺、あんみつ」
「女子か!」
「別にいいでしょ」


恥ずかしそうにお茶を啜る善逸さん。
甘いモノが大好きなこの人に現代のお菓子を食べさせてあげたい。
きっと喜ぶと思うんだけどな。
私にもっと女子力があれば、簡単に作ることができるのに…!
今度パンケーキが作れるか試してみよう。

「名前ちゃんは何にしたの?」
「私はわらび餅ですよ」

へえ、意外。と不思議そうな声を上げる善逸さん。
私、小さい頃からわらび餅好きなんですと言うと納得した顔をしていたけど。


「長い事食べてないので、凄く楽しみです」
「…あぁ、そうだね」


善逸さんが遠い目をして答える。
私がこの時代に来てから3年近く経つだろうか?
最後に食べたのがいつだったか覚えていないけど、身近にあったものが食べられなくなるのは寂しい。
だから、


「また、付き合ってくださいね。わらび餅食べるの」


にこっと微笑んで善逸さんに言うと、一瞬善逸さんが固まった。
善逸さんが口を開きかけた時、店員さんが大きなお盆を持って現れたのだ。


「あんみつとわらび餅になります」


何も言ってないのに、私の前にあんみつが置かれ、善逸さんの前にわらび餅が置かれる。
店員さんが去った後に、堪え切れず私は笑い声を上げた。


「ほ、ほら…女の子が食べるものだと、思われて…ぶ、ふ」
「五月蠅いなぁ!食べたいもの頼んで何が悪いんだよ!」


プンプン頬を膨らませた善逸さんが、私の前からあんみつを取っていく。
私も善逸さんの前からわらび餅を強奪する。
いえ、悪いとは言ってませんよ?可愛いなと思うだけで。

果物が沢山入ったあんみつ。
見た目からわかる、これ絶対美味しい奴だ。
串でわらび餅を掬いつつ、どうしてもあんみつから目が離せない。


「やらないよ?」


私の視線に気付いた善逸さんが隠すようにあんみつの皿の前に腕を出す。
言うと思いましたよ、私は。


「私のわらび餅を一つ、進呈しますので」
「だめ。俺のだよこれ」
「一口くらいいいじゃないですか」


ケチ、と小さく呟くと善逸さんはぷいっと顔を背けてしまった。
ぐぐぐ、どうすれば一口頂けるのか。私は頭の中で色々考えてみる。

ぽん、と手を叩いて良い事を思いついた私。
自分のわらび餅の一つにきな粉を沢山つけて、それを掬った。


「善逸さん、ほら、あーん」
「あ、はぁああ!?」


ぷるぷるしたわらび餅が宙に浮く。
下で掌でお皿を作っているけれど、いつ落ちるかわからない。
それを善逸さんの顔の前に持っていく私。

顔を赤くした善逸さんがぶんぶん首を振る。


「い、いらない!俺、食べないから!」
「まぁまぁ、そう言わずに。落ちちゃいますよ?」
「名前ちゃんが食べればいいだろ!!」


はい、あーん、と再度善逸さんの前で見せる私。
暫くわらび餅を見つめて、小さくため息を吐く善逸さん。
そして、ぱくっと口に収めてしまう。


「食べましたね?私のわらび餅」
「名前ちゃんが寄越したんだろ!」
「善逸さんが私のを食べたように、私も善逸さんのを食べる権利があります」


下さい、と手を広げてみせる私。
文句は言わせない、だって善逸さんは食べてしまったのだから。私のわらび餅を。
ふふふ、と不敵な笑みを浮かべ私は善逸さんを見る。


「一口でいいんですよ。何なら、全部分けてくれてもいいですけど」
「全部やらないよ!!どんだけ食べるつもり…太るよ?」
「ふ、太りません!女の子の胃袋は無限です!!」


善逸さんが目を細めて私を見る。
目を細めたまま、善逸さんがあんみつを一口分掬う。
そしてずいっとそれを私の前に差し出した。

「え?」
「あーん」


少し頬を赤らめたまま、善逸さんが言う。
私は急に恥ずかしくなって首を横に振った。


「じ、自分で食べれます!」
「俺にもやったじゃんか。ほら、あーん」


自分がするのはいいんだけど、される立場になると凄く恥ずかしい。
口をもごもごさせてどうしようか考えたけど、善逸さんの手はずっと私の顔の前にある。


「…うぅ…」


睨みつけるようにあんみつを見つめ、私は決心した。
ぱくり、と一口頂くと善逸さんの手がすっと戻っていく。

あんみつの味なんて分からない。
恥ずかしくて死にそうだ。
急に周りの目が気になってキョロキョロする私。
そんな私を見て善逸さんが楽しそうに笑った。


「あ、名前ちゃん。こっち来て…」


急に何かに気付いた善逸さんが手招きをする。
もぐもぐと口を動かしながら首を傾げる私。
ほら早く。と急かされ、無理やり口の中のモノを飲み込んで私は善逸さんの横へ向かう。


「なんです、」


何ですか、と聞きたかったんだけど、全部言い終わる前に私の頬に善逸さんの手があって、
そして善逸さんの顔が近づいてきた。
吃驚して反射的に瞼を閉じた。
キス、される!

なんて思ったけど、唇にはなんの感触もなくて。
そのかわり、唇の横をぺろりと善逸さんに舐め上げられたのだけはわかった。


「…っは、はぁっ!?」
「ごちそーさまー」


すぐに善逸さんは離れて顔を背ける。
私は自分の頬に手を当てて、ぽかんとするしかなかった。







ほんとかわいいおんなのこ。
食べちゃいたいくらい。









atogaki
れーさま、二つ目のリクエスト有難うございました!
善逸と主人公が任務の合間にデートする話(甘いものを食べに行く時)というお話がご所望でしたが、いかがでしょう?
ずーっといちゃいちゃしてるだけの甘いお話になってしまいました。
そして私はわらび餅が食べたくなってしまいました。
偶に食べたくなるんです、わらび餅。
皆様は何がお好きなんでしょうか?最近の女子の好きなものがわからないです^^
この度は誠にありがとうございました!

お題元「確かに恋だった」さま

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