手に入れたのは待っていたあの子


何だかおかしい。
それは日に日に思う。
何が、と言われれば善逸さんの態度だ。

2人で暮らし始めてから、結構な日が経っているけど、ここまで態度がおかしい善逸さんを見たのは初めてだった。
いつもなら、任務が終わったらさっさと帰ってきて、台所で夕飯の準備をしている私にベッタリ引っ付いているのに。
いや、引っ付いてくるのは引っ付いてるんだけど。
なんかこう、イチャイチャが少なくなった、と思う。

「どう思う?カナヲちゃん」
「……」

最近お茶友達と化しているカナヲちゃんに尋ねると、カナヲちゃんは目を細めて首を傾げた。
だよね、馬鹿な話をしてると思うんだよ、私も。
でも、なんか引っかかるんだよね。

「あの善逸さんが、なんかこう…紳士なの…。気持ち悪くて…」
「…名前ちゃん、仮にも自分の旦那様のことだよ…?」

呆れたようにカナヲちゃんが言う。
そうなんだけど、ね!そうなんだけど!
善逸さんが紳士って、全然似合わないっていうか。
紳士と言えば炭治郎さんなんか、カナヲちゃんに対してそんな感じじゃない?と聞くとカナヲちゃんは顔を真っ赤にして俯いた。
はぁ、いいなぁ〜。

「疲れてるのかもしれないから、今日は善逸さんの好きな物でも作っておく事にする」
「…うん、そうだね」

2人で話していても結局分からなかった。
取り敢えず、鰻の準備はしておくか。
カナヲちゃんと一緒に家から出て、道中で別れる事にした。




鰻を買いに行ったら、思いのほか安く手に入ったので、沢山買ってしまった。
善逸さん、喜んでくれるかな?
買い物帰りで手提げ袋に目をやりながら、鰻を見て喜ぶ善逸さんを思い浮かべて微笑んだ。

鰻だけじゃなくて、善逸さんが好きそうな甘いものも用意する事にして、淡々と準備を進める私。
プリンとかだったら、水瓶使えばギリギリ作れる、かな?
でも時間かかるしなぁ…。
うーむ、と台所で悩むこと数分。
考えるのが面倒になった私は、結局プリンに手を付け始めた。
今日食べれなくても明日には食べれるでしょ。

その日の晩、善逸さんが帰ってきたのは深夜に入った頃だった。
最近ではわりと夕方近くに帰って来てたので、久しぶりに遅めのご帰宅である。
別に善逸さんが帰ってくるまで起きておかないと!という主義でもないので、いつもはダラダラしたり寝たりなんていう生活なんだけど、今日は待っている事にした。
でも何だか眠たくて眠たくて、善逸さんが帰ってくるまでに何度意識が飛びそうになっただろう。
私の方が疲れてるのかな?
最近よく寝てる方だと思うんだけど。


「名前ちゃん!なんで起きてるの!?」

帰ってきて早々、玄関でお出迎えした私に声を張り上げる善逸さん。
と、言われましても。
別に今までだって起きてることあったし、そんな大層な事でもないと思うんだけどな。
善逸さんの羽織を預かりながら「今日は遅かったんですね」と嫌味っぽく零してやる。
廊下を歩く善逸さんが小さく息を吐いた。

「寝ててよかったのに、疲れてるでしょ?」

そう言って、私の頭をワシャワシャと撫でる善逸さん。
疲れるほど特に何もしてないんだけどな。
昔、善逸さんと旅をしていた時の方がどっちかというと疲れていた。
…それってもしかして、歳なんだろうか…一応まだ10代のはず、なんだけど。

隊服から着物に着替えた善逸さんが、居間へとやってきた。
私が用意していた晩御飯を台へ並べていくと、目に見えて善逸さんの表情が変化していく。
あ、喜んでる。

「どうしたの、これ」
「善逸さんが食べたいかなーと思って。ちなみに食後の甘いものもありますよ?」
「全部食べる」

そう言って、両手を合わせる善逸さん。
あー…なんかこういうのいいなぁ。
家族になって暫く経つが、こういうありふれた日常が愛おしくて仕方ない。
でも希望を言えば私もまた任務について行きたいんだけどなあ。
この前それを言ったら目を見開いて怒られたので、もう言わない。

善逸さんと楽しく晩御飯を食べてたら、あっという間に時間は過ぎていく。
段々私の瞼も限界が近いけど、善逸さんが起きてるのに私が寝てしまうのが勿体なくて、頑張って意識を保とうとする。
食べ終わった食器を片付けている最中に、2秒くらい意識が飛んだ。
それに気づいた善逸さんが、私の身体を支える。

「名前ちゃん、もう寝よ?」
「でも、片付け…」
「明日でいいし」
「でもでも…」

瞼を擦りながら善逸さんを見る私。
だって、起きてないと。

ふわっと善逸さんの匂いに包まれる。
善逸さんが私を抱っこしているのだ。
抵抗できないのが悔しい。

寝室に連れてこられ、ささっと布団を敷いた善逸さんが布団を叩く。
まるでここに寝ろと言わんばかりだ。
まだ寝たくない、でも眠い。
おかしいな、前はこんなに眠くなかった筈なのに。

「ほら、おいで」

善逸さんに引っ張られ、布団に寝かされる。
このままでは寝かされてしまう。
それは嫌だ。

善逸さんの羽織をぎゅうっと握って、上目遣いに顔を上げた。
優しそうな笑みがそこにあった。
本当に最近は紳士的なんだよなぁ。

「善逸、さん…」
「なに?」
「何で、最近……あの……」
「ん?」

いざ言おうとしたら恥じらいが出てしまう。
善逸さんに引かれないかな?
こんな子嫌だって思われないかな?

ま、いっか。


「何で、最近…してくれない、の…」


ピタっと善逸さんが固まる。
あー…やっぱり言うんじゃなかったか。
一時、というか一緒暮らし始めてからずっと…夜の方はあった。
でも、最近はそれも全く。
嫌われたのかなって思ったけど、普段の様子はそんな事ないからわからなくて。
私に原因があるんだったら、ちゃんと言ってほしいって思ってた。

地雷踏んだかも。

こっそり胸の内で後悔していると、善逸さんが大きくため息を吐いた。



「はあぁぁぁぁぁ…もうほんと…心臓に悪い」



ポリポリと顔をかきながら、私に向かって苦笑いする善逸さん。
何を言われるんだろう。


「あのね、名前ちゃん。俺、耳が良いんだよ」
「知ってます、けど」


私をそのまま布団へ誘い、善逸さんは腕を伸ばす。
いつものようにその腕に頭を置いて、善逸さんの顔を見つめた。
柔らかく笑う善逸さんが続ける。


「医者でもないから確定ではないけどさ。この前から名前ちゃんから、音が聞こえるんだよね」
「おと?」


意味が分からなくて、疑問符だらけである。
そんな私を置いて、空いている手で私のお腹を優しく撫で上げる善逸さん。


え?
それって?


善逸さんの手と優しい笑顔を交互に見つめる私。
もしかして?
本当に?


驚いて声が出ない。


「ずっと、会いたかったんだ。名前ちゃんと俺に似た子」


ぎゅうっと私の身体を優しく抱く善逸さん。
善逸さんの言っている意味をやっと理解して、私も善逸さんの背中に手を回す。


「急に紳士的になったのは…?」
「お腹の子に何かあっても怖いでしょ」
「だから、夜も?」
「……我慢してます」


呆れたような声でため息と共に零す善逸さん。
そうなんだ。
なんだ、そうか。


「私、お母さんになるんだ」


ポツリと呟くと胸にじわりと広がる気持ち。
大好きな人の子。
こんなにも幸せな気持ちになれるんだね。
善逸さんと過ごせて世界一幸せだと思っていたけど、それ以上の幸せがあるなんて。


「善逸さん、私も…」
「ん?」


相変わらず優しく微笑む善逸さんに私は胸を張って言いたい。


「私も、ずっとこの子に会いたかったのかもしれない。」


まだ実感なんて無いけれど。
無意識にずっと望んでいた。
善逸さんとの子。

どうか元気に生まれてきて欲しい。



手に入れたのは、幸せでした。

















atogaki
みさとさま、リクエスト有難うございました!!
長編ヒロインちゃんの妊娠発覚物語でした。
書きたい事が多すぎてまとまらなかったので、自分としては若干後悔してます。。。
(これだけで何ページも書きたかった!!)
足りない所はみさとさまの脳内で良いように補完してくださいませ。
この度は本当に有難うございました!

お題元「確かに恋だった」さま

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