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義勇さんに初めて名前で呼んでもらえた気がする。
それよりも私の唇に残った感触が頭の9割を占めていて、あんまり正常に働かない。
わ、私、義勇さんとき、き、キス…。
あわわと混乱している内にどんどん体温が高くなってくる。
そ、それから義勇さんに告白されて…いや、先に告白したのは私なんだけれど。
もう駄目だ、こんな所に居たら頭がもれなくパンクしてしまう!
「ぎ、義勇さんっ…あの」
「名前」
「は、はいっ」
「顔が赤い」
「だ、誰の所為だと思って…!」
これからは名前で呼ぶことにしたらしい、義勇さんが心配そうな顔を見せる。
単純に私の事を思ってそう言ってくれるのは分かるんだけれど、これは風邪なんかじゃなくて、
きっと義勇さんの所為なんです。
このままここにいると、本当にぶっ倒れそうだ。
ぐぐ、と言いにくいセリフと絞り出すように口を開いた。
「ぎ、義勇さん…送ってくれてありがとうございます、も、もう帰ります!」
「…あぁ」
「で、では…!」
名残惜しそうな顔で私を見る義勇さん。
そんな瞳で見ないで欲しい。私だって出来る事なら義勇さんの傍に…って、そんな事考えてたらまた熱が上がりそうだ。
とんでもなく動揺している手で車のドアを開け、まるで赤べこの様に何度も頭を下げる私。
そして、義勇さんの方を一度もみる事なく自分のマンションへ足早に逃げる。
凄まじい速さで自分の部屋に到着して、ドアを開けた。
パタン、とドアの閉まる音を聞いて私は玄関にぺたりと座り込んでしまう。
「…夢、じゃないよね」
確認のため一応頬っぺたを抓っておく。
うん、痛い。夢じゃない。
はああ…と深いため息が漏れた。
夢みたい。義勇さんが私の事、好きだっていってくれた。
もしかしたら痛みを感じる夢かと今も薄っすら思っている。
だってそうじゃないと義勇さんに好かれるなんてこと、あるのだろうか。
「あ、やばい…本当に熱上がってきたかも」
学校出るときは大したことなさそうだったのに。
知恵熱ならぬ恋愛熱?興奮して体温が上昇してしまったようだ。
とりあえず、部屋着に着替えてそのままバタンとベッドに転がり込んだ。
身体は疲れているから、すぐに瞼が重くなる。
あぁ、でも。
今日はきっといい夢が見れそう。
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夜中にも何度か目を覚まして軽くご飯を食べた。
数時間毎に目を覚ます事を繰り返し、気が付けば次の日の朝だ。
冷蔵庫に保管していた冷えピタを額に貼って、ヨーグルトを食べる。
まだ頭はぼーっとするけれど、わりと元気。
汗をかいたので、本当は良くないけれどシャワーを浴びた。
身体を拭くより、シャワーを浴びる方が好きだから。
入念に髪の毛を乾かし、残った水滴をタオルで吸い取っておく。
水分補給も欠かさない。
月曜には体調を万全にしたい。
使用後のバスタオルを洗濯機にシュートさせて、私はまたベッドに横になった。
今日と明日はのんびりしよう。
…月曜からどんな顔して義勇さんに会えばいいんだ。
昨日の余韻がまだ残っているので、思い出すだけで顔に熱が籠る。
お、お付き合い…してる事になるのかな?
義勇さんが、私の彼氏。
駄目だ、破壊力があり過ぎて死んでしまいそうだ。
ふとスマホの存在を忘れていた事に気付いた。
昨日帰りにカバンに突っ込んだまま、一度も確認することなく寝てしまい、今に至る。
ゆらっと起き上がり、もぞもぞとカバンの中に手を突っ込んだ。
別に何をしたいわけでもないんだけど、体調がマシになったら暇なんだよね。
適当にネットでも見るかとまたベッドに転がろうとした。
だけど、ちらりとスマホの画面を見ると、着信が一件とメッセージが二件来ていた。
反射的にそれらを開いて、差出人の名前に悶絶する。
ぎ、義勇さんだ…!
着信と1件のメッセージは昨日の晩。
そしてもう1件は今日の朝、一時間前くらいだろうか。
昨日のメッセージから見てみる。
『大丈夫か?』
短いメッセージなのが義勇さんらしくて笑ってしまう。
多分、連絡が返ってこないから電話をしたんだろう。
ごめんなさい、その時には既に夢の中でした。
今日届いたメッセージを見てみる。
『部屋番号は何番だ』
え?
思わずスクロールする手が止まった。
どういう事?
昨日のメッセージからいきなり飛んだ内容に驚きながらも、既読をつけたのでとりあえず、返信をする。
『昨日はそのまま寝てしまっていました。返信が遅くなりすみません。部屋番号は302ですけれど、それがどうかしましたか?』
ポン、と送信をタップする。
昨日の事には触れない普通の内容だ。
ふう、と息を吐いた。
義勇さんに連絡するだけで緊張する。
これでは月曜日に顔を見たら、また熱が出るんじゃないのかな。
月曜の事を想像して、思わず眉間に皺を寄せる。
私の手の中のスマホが震えた。
メッセージを受信したようだ。
多分、義勇さんだろうけれど、想像以上に速いな。
案の定メッセージは義勇さんだった。
だけど、送られてきた内容に、口を半開きにしてぽかんとしてしまう。
『今から行く』
は?
どこに?
直前のメッセージ内容から、もしかして、と恐ろしい想像が頭を過る。
嘘?ここに来ようとしてる?
スマホから視線をずらして家の中を見回す。
…うーん、まずい。
凄まじいスピードでタップする私。
『駄目です無理ですお願いですから来ちゃだめです!!』
大慌てで送ったけれど、全然既読にならない。
良くない想像が血の気を引かせていく。
や、やばい。義勇さんが来ようとしている、ここに。
スマホをベッドに落として、私は落ちている昨日の服を拾い上げた。
そして、軽く掃除機をかけてコロコロをしていた頃、想像通り、インターフォンが鳴った。
ドキドキしながらインターフォンのカメラを確認すると、そこには紛れもない私服の義勇さんが立っていたのだ。
あぁ…夢であれ。
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