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『俺だ、開けてくれ』
「…どうぞ」
オートロックのマンション、義勇さんは今、マンションのロビーにいる。
大慌てで掃除してよかった、あのまま何もしなければとっても悲惨な事になっていただろう。
部屋の中を最終確認して、私は玄関へ急いだ。
丁度扉の前に来た時、扉横のインターフォンが鳴り響く。
あ、義勇さんだ。
私は裸足のまま玄関に出て、鍵を開錠する。
カチャと音を立てて開いた先には、ビニール袋を下げた義勇さんが立っていた。
ほ、本物だ!
当たり前の事なのに何故かそう思ってしまった。
まだ昨日の事が夢物語のような気分だったからだろうか。
そんなふわふわした私を義勇さんがじっと見つめる。
「入っても、いいだろうか」
「ぜ、全然OKです!」
全然OKという日本語がおかしい事は知っていたけれど、それでも全力で歓迎したくてそう言っていた。
おずおずと扉を開けて、中へ入る義勇さん。
昨日とは違う私服にまたトクンと心臓が鳴った。
靴を脱いで早々、義勇さんが私の顔をじっと見つめたまま固まってしまった。
どうしたんだろう、顔、何か変なんだろうか?
あ、化粧!化粧してない!!
その事実に気付いてしまい、私はだらだらと背中に汗が伝う。
お願いだから、あまり見ないでください…!
「…まだ顔が赤いようだ。すぐ帰るようにする」
義勇さんの右手が私の頬に伸びてきた。
確かに義勇さんの手はとっても冷たくて、気持ちい。
熱があるのは勿論だけど、どちらかというと恥ずかしくて熱が上がっている気がする。
義勇さんの気遣いにさらに胸は高鳴った。
「気にしないで下さい、昨日よりマシですから」
「それならいいが」
どうぞ、とリビングへ通す私。
その後ろをひょこひょこと大人しくついてくる義勇さん。
ソファに案内して、お茶の用意をしようとした。
が、義勇さんに腕を掴まれてそのままソファに座らされてしまった。
あれ?
「病人が動いてどうする。気遣いは無用だ。ペットボトルだが、飲み物を買ってきた」
ガサ、と袋から二本お茶を取り出す義勇さん。
まあ、準備がよろしいこと。
それよりも私は義勇さんに捕まれた腕が熱を持って大変なんですけれど。
昨日の事が一瞬でフラッシュバックする。
ああ、もう…この人って平気でこういう事ができるんだから。
「有難うございます」
視線を少し下げたまま、お礼を言った。
こんな至近距離で義勇さんの顔なんて見れない。
「きょ、今日はどうしたんですか?」
昨日送ってもらったのに、今日も様子を見に来てくれた義勇さん。
優しい事には変わりないけれど、もしかしたら何か用事があったのかもしれない。
一応上目遣いで尋ねてみた。
すると、義勇さんは表情を変えずに
「心配だった、あと会いたかったからだ」
と零したのだ。
あまりの破壊力ある言葉に私はそのまま後ろにぶっ倒れそうになった。
ほ、本当に義勇さんなのこの人!!!
ぷしゅうと私の中の空気的なアレが抜けていく。
そんな私をよそに、義勇さんは私の顔を覗き込んで「迷惑だったか?」と言う。
迷惑なんてあるはずがない。むしろ…。
「そんな事、ないです」
それ以上は上手く言えないけれど。
そう言うとニコリと義勇さんが優しく微笑む。
それ、それ!昨日から笑顔も凄い破壊力なんです!
「昨日はあまり、話が出来なかったしな」
「そ、うですね」
「名前」
「は、はいっ」
急に名前を呼ばれて私の身体がビクリと反応する。
ずるいんだよなぁ、急に名前で呼ぶの。
「昨日、言えなかった事がある」
「なんでしょう?」
「俺と、付き合って欲しい」
「っ…!」
そんな普通の会話をするみたいにぽつり言われると、驚きを通り越して失神しそうだ。
完全に熱が上がってきた私、もう視界もぐっらぐら。
恥ずかしさと嬉しさと、もう全部わかんない。
でもちゃんと言葉で伝えてくれた義勇さんに、お返事をしないと。
揺れる視界の中、義勇さんが不安そうにこちらを見ている。
私は意を決して、口を開いた。
「……私と、義勇さんは既に付き合ってるんでしょ?」
恥ずかしいけれど、私も微笑んでそう言った。
昨日の勘違いをしていた、といった義勇さんを無かったことにしたい。
あんな悲しい顔、もう見せてほしくないから。
義勇さんは一瞬ぽかんと固まり、そして自分の口に手を置いて顔を逸らしてしまう。
真正面を見ようとしたら、さらに避けられてしまった。
むむむ…。
でも知っている。
こちらから見える義勇さんの耳が真っ赤に染まっていることを。
あーもう可愛いなぁ。
そんな姿を見てしまったら、熱があるのに私は義勇さんの身体に向かって抱き着いていた。
これで義勇さんに風邪がうつってしまったら、今度は私が出向いて看病をしてあげよう。
「大好き、義勇さん」
ぼそりと呟いた私の声はあなたに届きましたか?
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