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「まあ、結局付き合うことになったのね!」

月曜日の放課後、私の足はまた華道部へ向いていた。
美味しい茶菓子とともに訪れると、いつものように胡蝶先生がにこにこで迎えてくれて。
今日は胡蝶しのぶさんはいないけれど、栗花落さんが胡蝶先生の斜め後ろで、お花を生けていた。
私はまた部活中にごめんなさい、と言ったけれど胡蝶先生は首を横に振って「全然問題ないわ。どうぞ」とテーブルの前へ案内してくれた。

昨日までの事を口にするのは恥ずかしかったけれど、心配してくれていた胡蝶先生には伝えなければと思っていたから、
一番に報告をすることにしたのだ。
ちなみに、この後は気が進まないけれど宇髄先生にも報告する予定である。
(あの人が一応キューピッドの役割を果たしてくれたと言っても過言ではない)

胡蝶先生はとびきり可愛い笑顔で私の話を聞いてくれ、そしてお祝いしてくれた。
後ろの栗花落さんは何も言わないけれど、こちらもニコニコしていてまるで私たちの話を喜んでくれているみたい。
栗花落さんにも心配をかけたものね。

「冨岡先生もなかなかやるのねぇ〜。まさか家まで突撃するなんて」
「…ちょっとびっくりしましたけれど、お陰で助かった部分もあったので」
「素敵ね!」

恋愛の話をするのは少し気恥ずかしいけれど、自分たちの話で喜んでくれる人がいるのは、本当にうれしい。
胡蝶先生の顔を見ていたら、話して本当によかったと思える。

「次は胡蝶先生のお話を聞かせてください」
「わ、わたし…!?」
「ほら、不死川先生と…」

急に胡蝶先生の顔がりんごのように赤くなる。
テンパる姿も可愛らしくて、私が男ならすぐに惚れていた事だろう。
残念ながら、そうなると不死川にもれなくぶっ飛ばされることになるだろうけれど。

時間を忘れて女子会トークを進めていると、華道部の部室の扉が開いた。
部室にいた全員が扉の方へ視線を向ける。
そこにはいつかのように、青ジャージ姿の義勇さんの姿が。

「ぎ…冨岡先生」
「苗字、まだか?」

義勇さんは自分の手首を指でポンポンと叩き、私を見る。
慌てて華道部の中にある時計を見ると、放課後というより定時後である。
会話に夢中になっていて全然気づかなかった!
これには胡蝶先生も栗花落さんもびっくりしていた。

「あら、ほんと。しのぶからも連絡が来ていたわ」

胡蝶先生がポケットからスマホを取り出し、口元に手を当てて驚く。

「ごめんなさい、長居をしてしまって…」
「ううん、いいの。こちらはとても楽しかったし。それに…」

そう言って胡蝶先生が義勇さんの方を見て微笑む。
目が合った義勇さんは表情を変える事なく、首を傾げた。

「どうかお幸せに」

私と義勇さんを交互に見て、胡蝶先生が言う。
その言葉に私は涙が出そうなくらい嬉しかったけれど、ぐっと堪えて「有難うございます」と鼻声交じりの声を上げたのだった。

――――――――――


「宇髄先生に報告するつもりだったのに、時間がありませんでした」
「あれは別にいいだろう」
「そういう訳にはいきません。宇髄さんなりに心配して下さっていましたし」
「…心配ではなく楽しんでいたの間違いではないか?」

呆れ口調で義勇さんが言う。
華道部の部室を出て、私達は更衣室へ。
義勇さんが着替えるのを待っている間に、私は自分の帰り身支度をした。
今日はなんと義勇さんと一緒にご飯を食べに行くのだ。

勿論、鮭大根の美味しいお店に。

前に義勇さんとデートをしたときに連れて行ってもらった神崎さんのお家。
また行きたいなと思っていたから、義勇さんからこの話をして貰ったときは本当にうれしかった。

更衣室から出てきた義勇さんと合流し、私達は義勇さんの車へ急いだ。
今日の私服も素晴らしい。
思わず義勇さんを上から下まで眺めてうっとりしてしまう。
イケメンはやっぱりいい服を着るべきだ。心からそう思った。

「病み上がりなのに、本当に大丈夫か?」
「ええ、病み上がりと言っても昨日だってぴんぴんしていたでしょう?」

結局、土曜日に義勇さんがやって来たけれど、そのままなんとお泊りしていったので
日曜の晩まで一緒だったというオチ。
私が体調を崩していたので、特別なんかあったわけではないけれど、一緒の布団で寝る事になったときは、全然寝れなくて困った。
(緊張と恥ずかしさで眠気なんてすっ飛んでいった)

車の助手席に乗り込み、シートベルトを着用する。
その様子を義勇さんが優しく見ていた。

「出してもいいか?」
「はい、お願いします」

私に尋ねてからエンジンをかける義勇さん。
校門を出て、目的のお店まで30分。
暫く義勇さんと仲良くドライブを楽しむ。

「あ、聞いてもいいですか?」
「なんだ」

ラジオの音楽を聴いていたけれど、少し気になって運転中の義勇さんに話しかけた。
視線を逸らすことなく義勇さんはこちらに耳を傾けてくれる。


「どうして私と付き合ってる、って思ったんですか?」


途端に義勇さんの顔が曇った事が分かった。
聞いていいのか分からなかったけど、ずっと気になっていた。
本当は土日の間に聞きたかったんだけどなぁ。
聞きそびれてしまった。
義勇さんはあんまり聞いてほしくなさそうだけど…。

「あ、嫌なら別に…」
「嫌ではない。ただ、自分が恥ずかしいだけだ」
「義勇さんも恥ずかしいと思うことってあるんですか?」
「どういう意味だ」

だっていつも平然としているから。
まあ、同じ人間なんだし全くないとは言い切れないけど。

「良かったら教えて欲しいな、なんて」

にこっと微笑みながら言うと、はあ、とため息を吐く義勇さん。
ぽつりと「笑わないと誓ってくれ」と言われて、私はこくりと頷いた。


「…名前が、俺と一番仲がいいと言ってくれたから」


ボソボソと語尾が小さくなっていったけれど、確実に私の耳へ届いた。
確か義勇さんが煉獄先生と仲がいいのか?と聞いてきたときだ。
それでそう思っちゃったのか。
でも確かに今思えばあのときには既に義勇さんの事、すごく気になっていたし、無意識に私の好意が義勇さんに伝わっていたのかもしれない。
そう言う意味では勘違いではないと思う。

「へぇ…そうなんですねぇ」

ふふ、と小さく笑みを浮かべると
義勇さんが目を逸らして「笑うなと言っただろう」と少し怒った。

「ごめんなさい、可愛いなと思いまして」
「可愛いと言われても嬉しくはないな」
「あ、でも普段はとってもカッコイイんですよ、義勇さん。今日の服も素敵ですし」

信号待ちで車が停止する。
そのタイミングで義勇さんがこちらを見た。
首をかしげていると、ゆっくり義勇さんの顔が近付いてきて、そっと私の唇にキスを落とした。

「…っ、えっ!?」
「そういう可愛い事はベッドの中で言って欲しいのだが」
「べべ、ベッド!?」

突然の事に私の頭が湯気が出るくらいのぼせ上ってしまった。
しれっと何でもないように義勇さんはまた、前を見て信号が青に変わった途端車を走らせる。
私一人だけが大興奮してバカみたい。
でも、そう言うことが恥ずかしげもなくできるところが、義勇さんの良いところだ。


「じゃ、じゃあ…今日はうちに泊まっていきますか?」


自分で言ってて顔面を隠したくなるくらい恥ずかしい。
義勇さんの方なんて見れない。
ドキドキして義勇さんの返事を待つ。

「いや、やめとこう」

あっさり義勇さんに断られてしまった。
だ、だよね。突然こんなこと言うなんて、女として少しはしたなかったかも。
心の中で分かりやすく落胆していると、さらに義勇さんは続けた。


「今日は、俺の家で」


義勇さんの鋭い目が私を見つめる。
ああ、もう。せっかく風邪がなおったというのに、この人はどれだけ熱を上げさせるつもりだ。

言葉の代わりにコクコクとハトのように何度も頷く私。


そうこうしていたら、あっという間にお店の駐車場だった。
二人で仲良く手を繋いで、お店の扉を開ける。

暖簾をくぐり、中へ入ると、エプロン姿の神崎さんが前回同様私達に駆け寄ってきた。

「いらっしゃいませ、冨岡先生、苗字先生。今日はデートですか?」

前回と同じ事を聞かれている。
前回は慌てて否定したけど、今日は違う。


「うん、そうなの」


満面の笑みで私はそう答えた。




冨岡先生と友達になるはずが、恋人にまで発展してしまった。

この人と一緒にこれからずっとご飯を食べる事が出来るのを、こんなにも嬉しく思うなんて。
それが例え、ぶどうパンと牛乳だっていい。
たまには鮭大根を食べて、二人仲良く、これからもずっと過ごしていけますように。








あとがき
冨岡先生、これで完結になります〜。
長きにわたりお付き合い頂きまして誠にありがとうございました。
たまに拍手で「冨岡先生、好きです!」と言って下さる方がいて、私自身とても嬉しかったです。
これは完全に私の気まぐれで始まりました。
ネタは拍手でご提供頂いたのですが、書いていくうちに私自身の癒しになり、
密かに更新を楽しんでおりました。
番外は全く考えてないのですが、もし反響ありましたら考えようかと思います。

最後までお付き合い頂き、本当に有難うございます^^

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