04



「はぁ?先生、あんなキッモイ奴、相手にしてんの?」
「冨岡先生はキモくないよ、いい先生だよ」

私はベッドに腰を掛けている謝花さんに否定しておく。
授業中、気分が悪くなった、と保健室にやってきた彼女は「少し寝る」と言いつつも、今まで寝ずに私とお話をしている。
確かに少し熱はあったし、連れてきたお兄ちゃんの妓夫太郎くんも心配そうにしていたから、少し休ませて帰らせるつもりだ。
だけど熱がある割には、本人は元気なようでこうして無理のない範囲で私をお喋りをしている。
授業が終わったら妓夫太郎くんが迎えに来てくれるとのことだったので、それまでの間だけど。

生徒の中でも既に噂が回っているようで、私が冨岡先生とお昼を食べている事を謝花さんは知っていた。
そして、それに対して不快感MAXの顔で謝花さんは首を横に振った。

「いやキモイでしょ。階段下で一人パン齧ってるとこ、見たぁ?あんなん相手にする必要ないでしょ」
「それを見たから、一緒に食べましょうって誘ったの。一人で食べるの寂しいから」
「えー…普通に引く」

自分の口に手を当てて、ドン引いている顔で謝花さんは私を見た。
まあ謝花さん達はいつも冨岡先生に怒られていたりするから、余計そう思うのかもしれないけど、
私は別に冨岡先生変だとは思わないんだけどな。
一緒にご飯を食べて思ったけど、冨岡先生の良い所って一杯あるんだよ。
私が喋ったりすると、じっと目を逸らさずに見つめてくるところとか、話しかけると適当なんかじゃなくてちゃんと考えて話してくれたりとか。

私が冨岡先生の良い所をポツポツ考えていたら、謝花さんは盛大にため息を吐いて「ありえない」と零した。

「だってあの不愛想なトミセンでしょ?苗字先生なら、他にいい男いるじゃん」
「…え?どういう意味?」
「顔で言えば宇髄とか…あとは煉獄とかいるしそっちの方がよっぽど色男じゃない?」
「何の話をしているの、謝花さん」

ベッドにごろんと横になりつつ、男の教師の名前を上げていく謝花さん。
私は意味が分からなくて首を傾げたけど、逆に意味深な目で見られてしまった。

「だから、自分の男にするなら他にもいるって話」
「だれも自分の男にするつもりはありません」

やっと謝花さんの言いたい事がわかって、大慌てで否定しておく。
そんなんじゃないから!ただの同僚だから!
きっと私の顔は今頃、赤くなっているんだろうな。
っていうか、傍からみたらそう見えるのだろうか。それはそれで厄介だ。

「ただお昼を一緒に食べているだけ!」
「ふーん。あっそう。そう言う事にしといたあげる」
「事実だから!」

謝花さんは布団の中へ潜り込み、顔だけ出してクスクスと笑った。
もしかして私、生徒に弄ばれているのだろうか?
確かに冨岡先生みたいに威厳みたいなものは皆無だけどさ。

はあ、と何度目かのため息を吐いて、私は謝花さんのベッドのカーテンを閉じる。

「もう寝なさい」
「はぁい。お昼になったら、起こして」
「分かった。それまでゆっくり休んでね」
「うん」

案外あっさりと謝花さんは頷いた。
それを見届けて、私はなるべく静かに業務に戻った。


―――――――――――――


お昼のチャイムが鳴った時、私が起こす前に謝花さんは、自分からベッドのカーテンを開けて出てきた。
顔色は少しだけ良くなっている。
もうすぐしたら妓夫太郎くんも来るだろう。ソファに座るように言うと、素直に彼女は腰を下ろした。

その時、保健室のドアがコンコンとノックされたので、妓夫太郎くんかと思い「どうぞ」と声を掛けた。
ドアが開いて、中へ入って来たのはいつものようにパンと牛乳を手に持った冨岡先生だった。

謝花さんの表情が一瞬で曇ったけれど、冨岡先生は気にせず、私のデスクの前に腰を下ろし、いつものようにパンを並べた。

「謝花は体調不良か」
「えぇ。もうすぐお迎えが来るんですけどね」
「…ガチで一緒に食べてるんだ」

謝花さんは冨岡先生と私を交互に見て、驚きの声を上げる。
私は苦笑いを零し「そうよ」と答えると納得のいっていない顔をしていた。

「トミセン、苗字先生にいつもお昼付き合ってもらってるなら、なんかお礼の一つくらいしなさいよ」
「お昼に付き合ってもらってるのは私の方なの。だから、そう言う事言わないの」
「……お礼」

腕を組んで目を細める謝花さんがそう言うけど、私は首を横に振ってまた否定する。
事実、誘ったのは私からだし。何も間違ってはいない。
むしろお礼をしないといけないのは私の方かも。

そう思っていたら、冨岡先生は顎に手を当てて考え込むように黙ってしまった。
それを謝花さんは面白そうに見つめる。


「二人でデートの一つでもしてみたら?」


ニヤリと口角上げて笑う謝花さん。
若干16歳にして、この娘はとても綺麗な顔立ちをしている。
学園の中の男どもが皆、彼女に貢物を持ってくるくらい人気の顔で言われたものだから、一瞬反応が遅れた。

「デート?」

言葉の意味を脳が理解するまでにも時間がかかってしまい、謝花さんの言葉をオウム返しする私。
冨岡先生は何も言わない。

段々理解が追いついて来て、言葉の意味を理解した時、
先程以上に私の頬に熱が籠ったのが分かった。


「大人をからかわないで!!」


プンプン起こりながら、謝花さんに言うと綺麗な顔でケラケラ笑い、
「苗字先生、めっちゃ顔赤いよ」とぽつり呟いた。
君が変な事を言うからでしょうに!大人をからかうものではありません。
一瞬頭の中でデートをしている私と冨岡先生の絵が浮かんだものだから、余計恥ずかしい。

私が一人プンプンしていると、また保健室のドアが開いた。
ノックよりも先に聞こえてきたのは妓夫太郎くんの「梅〜…大丈夫かぁ?帰るぞ〜」の声だった。

「お兄ちゃん!」

ドアに妓夫太郎くんの姿を見つけた謝花さんは、すくっと立ち上がり、ドアに向かって駆けていく。
そしてくるりとこちらを振り返り「んじゃ、頑張ってね苗字センセ」と笑顔で手を振った。

パタン、と閉じられたドアを見つめ、私は唇を尖らせる事しか出来なかった。


「もう…最近の若い子は…」


ブツブツ文句を言いながら、私もお弁当をカバンの中から取り出した。
まだ顔は赤い気がするけど、気にしたら負けだ。
冨岡先生だって華麗に無視を決め込んでいるし、何も無かった振りをしてご飯を食べよう。
そう思って、黙々とお弁当を広げる私。
あんな事を言われると余計意識してしまう自分の弱さを呪った。


「苗字」
「何ですか?冨岡先生」


珍しく冨岡先生の方から声を掛けてきたので、私は頭を切り替えて冨岡先生に視線を向けた。
どうか、顔が赤いのバレませんように。
そんな私の願いは冨岡先生の一言によってあっけなく吹っ飛んでしまった。



「今度の日曜、時間あるか?」
「はい?」



いつもと変わらない顔で冨岡先生がぽつりと呟いた。

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