【9】聞いてくださいよ



五番隊を出て次は六番隊か。朽木隊長のところかなんて考えていたら、急に手元が軽くなった。持っていた書類はどこへやら。


「遊ちゃん、一人なん?」
「市丸隊長、お疲れ様です。書類を返して頂けますか?」
「いややなぁ、遊ちゃんとボクの仲で市丸隊長なんて寂しいやないの。前みたいにギンちゃんて呼んでや。」
「現三番隊隊長様にギンちゃんだなんて呼べません。」
「遊ちゃん、それちょっと嫌味か。ボクが三番隊の隊長なんはいややった?」


市丸隊長ことギンちゃんは昔、彼の直属の部下だった。私の過去を知る者の中の一人で、藍染隊長が彼の副官だった頃は藍染さんの後ろをちょこまかついて歩いていた。会う度に遊ちゃん遊ちゃんと呼んでくれて、それはそれは可愛かった。
それが今ではこんなに背が伸びて、更には三番隊を率いる隊長だ。それに少しだけさみしさを覚えているのは事実で、無駄に歳はとるものではないな。


「…嫌じゃないよ。ごめんね、なんだか遠い人になっちゃった気がしてちょっとさみしかっただけだよ、ギンちゃん。」
「…ボクはどこにも行ってへんよ。ずっと遊ちゃんのそばにおったよ。」
「そうよね、…ごめん」
「そろそろ書類を返して頂けますか、市丸隊長。」
「あらら、トキちゃん来てしもぉた。」


トキはその呼び方早めて下さいって言ってギンちゃんから書類を奪いとった。
そんなトキの言動に怒ることなく、怖い怖いと笑いながすギンちゃんは流石だなと思う。何も考えてないようで、しっかりと周りを見ている。まぁ、何も考えていないと言うより何を考えてるかわからないって言った方が正しいかな。


「私と遊は六番隊に用がありますので、失礼します。」
「六番隊かぁ。ボクあそこは苦手やから帰るわぁ。ほな、また。」
「またね。」


昔のように手を振ると、ギンちゃんはなんだか嬉しそうに手を振り返してくれた、気がする。なんせ表情が読み取れたもんじゃない。渋面をつくるトキを見て苦笑いしていると、笑っている場合じゃないと怒られた。


―最近なんだか昔の知り合いに声をかけられるんです。
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