【8】あなたは知っていたんですね



いつものように書き終えた書類を各隊に持って行くために瀞霊廷内を歩いていた。五番隊へは一番最初に持って行く。彼を探してしまう癖が未だに抜けていなくて、落ち込む気持ちを隊舎に戻るまでには持ち返さないといけないので最初に行くようにしている。


「失礼します。」
「どうぞ。」
「藍染隊長、お疲れ様です。直々に印を頂きたく参りました。」
「風雅君じゃないか。お疲れ様。どの書類かな?」
「こちらです。」


書類を渡し、印が押し終わるのを待つ。藍染隊長は何も悪くないけど、何度"五"の字の羽織を着るこの方の姿を見て気が狂いそうになったことか。
やっとの思いでこうして藍染隊長と向き合う事が出来るようになった。
そもそも、この人の事は副隊長の時から苦手だった。いつもその笑顔をはりつけて何かを隠してる気がしてたし、何より隊長に信用されてる様には見えなかった。私の勘違いかもしれないけど。


「これで大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました。」
「そう言えば、久しぶりだね。今は八番隊にいるんだったね。第五席だって言うのは本当かい?」
「ぇ……あ、はい…。」
「君の実力なら副隊長、いや、隊長にだってなれるはずだ。なぜ五席なのかずっと不思議に思っていたんだ。なにか理由でも、あるのかな?」


これだ。この何かを探るような、そして、刃を突きつけられているかのような感覚さえ覚える視線と空気感。霊圧こそ変わらないものの、彼はそれを感じさせるだけの何か、とてつもない力を持っている気がする。


「藍染隊長のお言葉、身に余る思いです。理由などありません。あるとすれば八番隊では私以上に優秀な隊員が多い、とでも言っておきましょうか。」
「…なるほど。京楽隊長は素晴らしい人材を揃えているという事だね。羨ましい限りだ。気が向いたらぜひ五番隊に来て欲しいものだね。」
「ありがたきお言葉。京楽隊長の身に何かありましたら、ぜひ拾っていただければ幸いです。」


彼の誘いすら断ったって言うのに、あなたの下に就くわけないじゃない。
ますます空気が重くなっているような気がしたが、途中で入ってきた雛森副隊長に助けられた。また飲みに行きましょうねと言う彼女にぜひと答えて、上手くその場をしのぐ事が出来た。


「雛森君は風雅君と仲がいいのかい?」
「風雅さんですか?乱菊さんととても仲がいいみたいで、飲み会があると乱菊さんが連れて来るんですけど、そこでお会いする程度です。風雅さんに何かありましたか?」
「いや、少しばかり昔の彼女を知っていてね。久しぶりに話せたもんだから、気になっただけだよ。」


―こんなに気味の悪い部下とよくお仕事ができましたね。

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