【10】折角なので少しだけ



これは100年以上前、まだ彼が生きていた頃のお話。私にとってはとてもとても大切な思い出です。


―112年前・三番隊隊舎


「え!?鳳先輩が隊長に!?」
「遊、ボクは鳳橋だって言ってるじゃないか!」
「鳳橋って最強に言い難いので略しますって言ってるじゃないですか、諦めてください。」


鳳先輩改め鳳橋楼十郎先輩は私が三番隊に配属されてからずっと面倒を見てくれている。そんな先輩がこの度隊長に抜擢され、いつの間にか隊首試験を受けていた。えー、私に内緒で受けたんですかぁ…。


「機密事項だったから、君に相談すら出来なかったんだよ。そんな顔しないでくれ。」
「そんなに顔に出てましたか。」
「もう何年の付き合いだと思ってるんだい?」


兎にも角にも、これはとてもおめでたい事だ。姿勢を正して先輩に向き合う。


「この度は隊長就任おめでとうございます。」
「ありがとう。正直、ちょっと自信ないんだけどね…」
「何言ってるんですか!隊長になられたんですから、しっかりしてください!」
「その通りじゃ!これからバンバン働いておもらうけぇのぉ!しっかりしな!」


そう言って鳳先輩のお尻を叩くのは射場千鉄副隊長。三番隊のお母さんの様な人だ。
鳳先輩が隊長に就任したと同時に、私は第三席になった。お二人のそばで置いていかれないように仕事をしていくのが精一杯で、役に立てているのかは自信はなかったけど、自分なりに一生懸命やっていた。

そんな時にその知らせは入ってきた…。


「え…?」
「三番隊副隊長、射場千鉄様が現世任務中に倒れられ、ただ今四番隊に運ばれました。」
「副隊長っ!」
「遊、落ち着きなよ。」
「隊長…!!」


副隊長の知らせを聞き、今にも飛び出していきそうな私を鳳隊長が制した。
そんな顔で行ったら千鉄さんにドヤされるのがオチだよって言う先輩の顔は、もうしっかり隊長だった。


「ボクが行くよ。あとは頼むね。」
「はい。」


四番隊に向かう隊長の背中を静かに見送るしかなかった。私は私の出来る事をしよう。


―むかし昔あるところに。

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