【26】落ちるのは一瞬で
一日が終わり、久しぶりに部屋でレコードを流した。
持っているレコードはこの一枚のみ。
なんで持ってるのかは記憶がない。気がつけば持っていた。
"ショパン-ノクターン-"と書かれたレコードを眺めた。
これを聴きながら泣いていた記憶がある。なぜ泣いていたのかは覚えていない。
今はこれを聴きながら胸をときめかせている自分がいる。
"この曲、ええよな"
あの時の平子隊長の表情が忘れられない。
優しく柔らかな微笑みで、彼と同じものが好きなのかと思うとなんだか嬉しい気持ちになった。
これは間違いなく、私は平子隊長を好きになってしまったことになるのだけど、人を好きになるなんて久しぶりすぎてどうしていいのか分からない。
「遊〜、いる〜?」
「乱ちゃん??」
物思いにふけていれば、自室の扉をコンコンと叩き、私の名を呼ぶ友人が訪ねてきた。
現世でワインを買ってきたから一緒に飲まないかとボトルとグラスを持ち上げて見せてくれた。
どうぞと部屋に通して、何かつまむものを取りに行った。
乾杯と軽くグラスを鳴らして口に含むと優しい葡萄の香りが広がった。
「レコードなんて聴いちゃってどうしたの?」
「あ、…なんとなく聴きたくなって。」
「そう…まぁ、泣いてないならいいわ。」
「え…?」
「あんたがレコードを聴いてる時はいつも泣いてたから。」
やっぱりそうなんだ…。記憶がないことに何か関係があるのかな。
もしかすると"本当の私"も平子隊長のことが好きだったのかな…?
「乱ちゃん、相談してもいいですか?」
「何よ、今更!私たちの仲じゃない!何でも言ってよ!」
「あの…人を好きになったら、まずどうしたらいいんだろう?」
「ブッ‼…っは⁉」
「乱ちゃん、汚いよ…」
急な恋愛相談でびっくりしたのか、乱ちゃんが吹き出したワインを拭いてあげた。
いやいやいやと慌てる乱ちゃんが少し面白く見えてきた。
「誰⁉トキ⁉」
「なんでトキ?しかも、前からトキはあり得ないって言ってるのに…」
「わぁ、そんなあっさり…トキも気の毒だわ。」
「人って、簡単に人のこと好きになるものなのかな…?」
「まぁ…恋に落ちるのは一瞬だっていうしね…。何、一目惚れなの?」
「んー…一目というか二目というか…」
もう!誰なのよ!?と癇癪を起こしそうな乱ちゃんに誰にも言わないでねと念を押した上で、相手が平子隊長だと言うことを教えた。
なぜかわからないけど、そう伝えた瞬間に目をキラキラと輝かせてそうかそうかと頷き、トキには悪いけど私はあんたを応援する!と両手を握られた。
「いや、だから…トキは「いいのいいの!さて、じゃ、この乱菊さんが一肌脱ぎますか!」
…大丈夫だろうか。
私は知らないぞとトキの声が聞こえた気がした。
―実らせるのはどれくらい?
prev next
back