【27】多事多難



あれからしばらくして、いつもの日常を過ごしていた。
たまに平子隊長を見つけては目で追い、目が合えばお辞儀をした。

五番隊の近くを通る度にあの曲が聞こえてきて、それだけで平子隊長と繋がっている気がしていた。
その度に心拍数が上がって、頬を染めていた。

恋なんて初めてじゃないはずなのに、相手が相手だけにどうしたらいいのか分からなかった。
自分は五席で、相手は他の隊の隊長だ。正直昔の知り合いだということ以外に接点はない。しかも、私には記憶がない。
隊長だって昔の知り合いだから仕方なく関わってくれているだけかもしれないし…。

ある日、昼食をとり一人で隊舎に戻る途中、女性隊員何人かで楽しそうに立ち話をしていた。
よくある光景だし、何気なく脇を通ろうとした時だった。


「平子隊長も中々の男前よね!」
「最近音楽を流しててさ!なんかオシャレじゃない?」
「確かに!ぁ、でも、知ってる?」
「何?」
「いつもあの曲だから、何か理由でもあるんですかって聞いたらね…」
「え、何⁉気になる!」


平子隊長の名前があがれば私も気になるもので、無意識に少しだけ歩く速度が緩んで耳を済ませていた。


「なんでも、100年前に付き合ってた恋人との思い出の曲なんですって!」
「キャー!めっちゃロマンチスト!」
「で、その恋人って誰⁉」
「私も今の護廷十三隊にいるんですか?聞いたんだけどさ、秘密だってー!」


えー気になるだなんだと騒ぐ彼女たちをよそに、私は後頭部を鈍器で殴られたような、めりめりと地面に沈んでいくような気分だった。


"恋人との思い出の曲"




"この曲、ええよな"


あの優しく柔らかな表情は同じ曲が好きな私に向けられたものではなくて、"昔の恋人"を思い出してその"彼女"に向けてだったんだ。
私は何を期待していたのだろう。身の程知らずもいいとこだ。

そんな私に追い討ちをかけるように背後から知っている人の声がして、息が止まった。


「何をそんな辛気臭い顔をしているの?時園の血が通っているのかと思うと一族の恥ね。」
「絃乃さん…どうしてここに…?」
「どうしてだなんて随分ね。私、先月から五番隊に所属になったの。よろしくね、風雅五席?」


彼女の突然の登場に思考がうまく回らない。


「他の隊の五席に対してその態度はいかがかと思います。」
「あら、トキ。それは失礼しました。でも、女子の会話に口を挟むのもどうなのかしら?」


動揺している私の前にトキが立ってくれたおかげで少し気が楽になったものの、ぐっと握った手は震え、指先は冷たくなっているのが自分でもわかった。



「遊さん、私は私から全てを奪っていったあなたを、絶対に許さない。」
「‼奪ってなんかっ」
「奪ったじゃない…。お父様も、斬魄刀も。」
「違う!」
「だから…私もあなたから奪うわ。あなたの大切なもの、すべて。」


絃乃さんの言葉は重く、その声は深く濃く私の耳に届いた。


―どう乗り越えてきたのかもわからない。

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