【28】私は知っている



そうだ。もう無心になろう。
無欲になろう。私は求めてはいけない。


「遊」
「何も言わないで。」
「…わかった。でも、私はいつでも遊の味方だし、必ず守る。それだけは忘れるな。」
「…」
「遊」
「…トキ、私に何かあったらお兄様に知らせて欲しい。」


絃乃さんと会ったあの日から無心で働いていた。
隊長も私の様子に気づいてはいると思うけど、何も言ってこないのは私への配慮だと思う。

平子隊長を見かけると私の決意とは裏腹に心臓は黙っててくれなかった。
だけど、私はこれ以上大切なものを増やしたくなかった。奪われるのが怖いから。
だから、目で追うことも我慢したし、目が合わないように心がけた。もう私には関わらないで欲しい。


「遊〜!」
「乱ちゃん」
「元気?」
「はい。」
「そう…。あのね、今週末、新しい隊長達の就任祝いをする事になったの!遊も一応昔の知り合いだから、参加しなさいね!」
「あ…わかりました。」
「…あんた、何かあったの?」


心配そうに聞いてくる乱ちゃんになんと言えばいいのか分からなかった。
乱ちゃんにもあの事をいうべきなのか…。いや、乱ちゃんも巻き込めない。


「大丈夫、何もないよ。今週末必ず参加します。」
「う、うん。何かあるならちゃんと言いなさいよ?」
「はい。」


あれから絃乃ふさのさんが何かしてくることはないが、111年前の事がある。
油断はできない。どんな方法で何をするかわからない。
絃乃さんは斬魄刀を、時鳥ほととぎすを私が奪ったと言っていたけど…それは違う。
そもそも絃乃さんも自分の斬魄刀を持っているし、彼女には時鳥ほととぎすを持つ資格がない…。
でも、彼女は何も悪くない。何も知らないから、彼女は悪くない。



「じゃ、遊、そろそろ切り上げて行こうか。」
「うん。隊長達はもう向かってるのよね?」
「うん。…大丈夫?」
「大丈夫だよ。せっかく乱ちゃんが企画してくれたんだもん。参加しないとね。」


きっと私があの時恋愛相談をしたから私のために動いてくれたんだよね。
平子隊長と話す機会を作ってくれたんだよね…。でも、今は…。


「お、来た来た!遊!!トキ‼」
「ちょ、一角‼あんたね!」
「なんだよ、いつもの事だろ。」
「今日はいつもじゃないのよ!って、遊も素直にこっち来ないの!」
「え…だって、こんな広い会場で、こんなに人がいるのに、知らない人の所に座れって言うの…?」
「っ…ごめんごめん、そうよね。もうとりあえず一角のせいで悪目立ちしてるから座りましょ!」


上座の方を見れば隊長達が座っていて、一角くんが大声で呼んだせいか隊長達がこちらを見ていた。
お騒がせしましたという意を込めて少しだけ下げた頭を上げると、平子隊長とバッチリ目が合ってしまった。
…胸が苦しい。

トキに座るように促されて、私は乱ちゃんの右側に座った。
右側にトキがいて、目の前には一角くんと弓親くんが座っていて、いつものように飲み比べしようなどと話している。
気づけば周りにはいつものメンバーがいて、前と違うなと思うのは阿散井君の隣には朽木さんがいることだった。
仲睦まじいところを見るとこちらまで嬉しくなった。


「遊、お酌しにいきましょう!」
「え…あ、ちょっと待って」
「ほら、早く早く!」
「遊」
「トキはそこにいてね!遊のことは私に任せて!」


少し心配そうなトキを置いて、私は乱ちゃんのされるがままに上座へと歩き出した。


―失う怖さを。

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