【31】恨むことなんて
「兄上!どうして!!」
「私の言葉が聞こえなかったのか?下ろせと言ったんだ。」
お兄様の一言で時鳥を下ろした絃乃さんは唇を噛み締めていて、少し痛々しく見えた。
私は殺されかけていたと言うのに呑気にも相手の心配をしていた。
「今、何をしようとしていた?」
「お兄様…」
「遊は黙っていなさい。絃乃、答えなさい。」
「兄上はその人の味方なんですか…」
その言葉にお兄様は深いため息をつくと、床に這いつくばる私を抱き上げて柔らかい布団の上に下ろしてくれた。
再び絃乃さんと向き合い、優しく彼女の手から時鳥を取り鞘に戻した。
「絃乃、遊、私たちは長年この因縁に悩まされてきたな。私は今日、ここで真実を明らかにしようと思う。二人とも良いな?」
「しかし…お兄様…」
「いいわ!はっきりさせましょう!代々伝わる時の斬魄刀・
時鳥は誰のものなのか、これで決まる。」
お兄様は今までうやむやにされてきた時園家の三兄妹の真相を絃乃さんにも明かすことを決心したようだった。
なら、私はお兄様のその気持ちに従うしかない。
お兄様の計らいで私はそのまま横になった状態で、二人は私のすぐそばに腰を下ろした。
この後聞かされる真実に、彼女は耐えることができるのか。受け入れてくれるだろうか。
「まず、時園家には二人しか子に恵まれぬ言い伝えと代々継承してきたこの二本の斬魄刀の逸話について聞いたことはあるな?」
「あるわ!遊さんがいなければ私が継承しているはずだった!」
「それは違う。そもそも、時鳥が遊を選んだのだ。それに…絃乃、お前は継承する資格がない。」
「兄上までどうしてそんなことを言うのですか⁉」
「お前は…父上の娘ではないからだ。」
「な、何を…」
「絃乃には時園の血が流れていない。だから、時の斬魄刀に選ばれることはない…。」
自分が斬魄刀を継承することが出来なかった真実を聞かされた絃乃さんは、一点を見つめたまま固まってしまった。
信じられないと思う。
ずっとお父様とお義母様の間に生まれ、時園家の娘として育てられて来たのに、いきなりお前はお父様の子供じゃないのだと言われても現実味がないだろう。
だけど、これは事実であり、私とお兄様だけがお父様から直々に伝えられた真実だった。
私たちは悲しい運命に縛られた三兄妹。
真実を語り、申し訳なさそうに謝っていたお父様の姿が今も鮮明に思い出された。
「お前たちには本当に申し訳ないと思っている…。」
「父上…」
「遊、紫織と絃乃は悪くない…悪いのは全て私なのだ。今後二人がお前を傷つけることがあるかも知れないが、恨んでやるな…。特に絃乃は何も知らない。お前の広い心で許してやってほしい…。」
―誰も出来やしない。
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