【32】過去の産物



これはお父様が語った私たち兄妹のお話。

はじまりは、私たちが産まれる前、私の母・風雅 菖と父・時園 創次郎がまだ若かりし頃。
名門貴族である時園家の次男として生まれた創次郎は、時鳥ほととぎすに選ばれ、周りからは次期当主にと騒がれていた。だが、当の本人は兄を差し置いて当主になるつもりなどなかった。

一方、菖は時園家には劣るものの貴族である風雅家の一人娘として大切に育てられていた。

そんな二人は両家の関係を深めるため、許婚として小さい頃から共に時を過ごしていた。
そして、それは親が勝手に決めたただの許婚ではなく、お互いに惹かれ愛し合う仲へとなっていった。
互いに生涯を共にし、家族を作っていくのだと信じて疑わなかった。

ずっと許婚だった二人が正式に婚約しようかと考え始めた頃だった。時鳥ときつどりを継承した創次郎の兄が亡くなった。
慕っていた兄が亡くなったことだけでも身を裂かれる思いなのに、そこに重なるように両親から告げられたのは菖との婚約の解消だった。


「なぜ!!」
「この家にはお前しかない。お前が当主になるのだ。当主には当主に相応しい相手が必要だ。」
「菖は聡慧です!当主の伴侶として申し分ないはずです!」
「西園寺家にも素敵なお嬢さんがいる。」


それが今の妻である紫織であった。
創次郎と紫織は政略結婚である事を理解し、付かず離れずの距離感を保ちながら夫婦関係を築き上げていった。
だが、創次郎は菖を忘れることが出来ず、菖も隠れて会う事は良くない事だとわかってはいながらもその関係を続けていた。


「紫織に子が出来た。」
「そうですか…。仕方のないことです。時園には後継者が必要ですから…。」
「菖…私には菖だけだ。昔も今も、これからも…。」
「創次郎さん…」


そんな中、架絃が生まれ、紫織は割り切った夫婦関係のつもりが、長い月日を創次郎と過ごしていくうちに彼の優しさに惹かれていった。
創次郎は心は菖に向いてはいても、妻として迎え入れた紫織にはそれ相応に向き合ってはいた。
それが余計に紫織の心を掴んでしまったのであった。

そして、彼の気持ちは相変わらず自分にはなく、許婚であった風雅家の令嬢に向いていることを紫織は痛いほどわかっていた。
嫉妬などするつもりなど、彼を愛するつもりなど毛頭なかったはずなのに、自分は西園寺家の為だけの存在だったはずなのに、いつしか自分の気持ちが大きくなっていくことに戸惑いさえも感じていた。
隠れて彼の想い人を見に行くと彼女は小さな女の子を連れていて、気づけば目の前に立っていた。


「!紫織さん…。」
「あなた…その子…」
「すみません…」
「二人目が出来ない原因は、あなただったのね‼」
「…」
「時の斬魄刀はあなたの子には一本も渡さない。…あなたさえいなければ…創次郎様は…」
「‼」


紫織の創次郎に対する想いを知った菖は創次郎とはもう会わず、遊と共に姿を消すことを決めたのだった。


「お母様、どこ行くの?」
「ここから遠い所よ…もうお父様とは会わない。」
「お父様とはもう会えないの…?」
「そうよ。お母様と一緒に生きていくの。出来るわね、遊?」
「うん!」


―それは今へと繋がる鍵。

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