【33】それぞれのおもい



それから数年が経ち、菖の死と残された愛娘の話を聞いた創次郎はすぐに迎えに行き時園家の養女として迎え入れた。

一度だけ見たことがあった紫織は創次郎が遊を養女として迎え入れたことに酷く傷ついた。
この娘のせいでどんなに行為を重ねても創次郎との子供が出来る可能性はもうない。
しかし、彼が娘を愛している以上、どんなに恨んでいても憎んでいても手を出すことは出来ない。
"お義母様"と呼ばれる度に泣き叫びたかった。自分だって愛する人との子を産み、自分も愛されたかった。


「子が…出来ただと…?」
「はい。私たちの二人目の子でございます。」
「そうか…」


その子・絃乃は自分の子ではない事は創次郎が一番良く分かっていた。
時園家は遥か昔から二人しか子に恵まれない。菖との間に遊が生まれた時点で自分にはもう子供ができるはずがないのだ。
だが、一方で紫織の気持ちに気づかない創次郎ではなかった。自分の気持ちが紫織に向いていないせいですごく傷つけている。
そして、紫織は外で身元も分からぬ者と子を作ってしまったのだ。

自分は遊と姉妹だと思っていた。でも、違った。
ある日、父の部屋の前を通った時、少しだけ開いた障子の隙間から知らない女性の写真を愛おしそうに見つめる父を見たことがあった。
その女性は誰なのか疑問はたくさんあったのに、それは部屋の中にいた遊の一言で今まで積み上げてきたものが崩れ去っていく音がした。


「お母様の写真をお持ちだったんですね。」
「ああ、まだ私と菖が許婚だった頃の写真だ。」
「三人で過ごした日々が懐かしいです。」


自分と遊は姉妹ではない?
父上は母上以外の女と関係があって、遊はその女との子供…?

醜い、汚い、気持ち悪い…!!

それ以来、遊に対する態度が変わり始め、二人に対する復讐心が芽生えた。
その時に手を貸してくれたのは絃乃の斬魄刀・朱呪蘭すずらんだった。
朱呪蘭すずらんは毒性のある斬魄刀で、絃乃は創次郎に少しずつ毒を盛った。

最初は些細な変化であったものも日に日に創次郎の体を蝕んでいった。
起き上がる事すら辛くなってきた頃、創次郎は架絃と遊を密かに呼び出した。


「私はもう長くないだろう。」
「何を言うのですか、父上!」
「二人とも聞きなさい。お前達は正統な時園の者だ。だから、時の斬魄刀にも選ばれた。」
「お父様、何言ってるんですか!絃乃さんも「絃乃は私の子ではない。」
「「!?」」
「それを絃乃は知らない。言うつもりもない。絃乃は私の愚かさから生まれた、ある意味私の子だ。」


呼吸さえ忘れてしまうほどの事実を知り、二人は何を言えばいいのか分からなかった。
絃乃が何も知らないのなら何故父上に毒を盛る必要があったのかという疑問が浮かぶ。
それは絃乃が創次郎には元許婚がいて、母親と婚姻関係にあるはずの時期にその女と逢引し子供までも儲けていたことを知ってしまったからだと淡々と語った。

遊が婚外子であることは知っていたし、父上には想い人がいる事も幼いながらにも理解していた。
確かに家族からすれば許しがたい事だとは思うが、だからと言って毒を盛って良い理由にはならない。


「絃乃に言って解毒してもらいましょう‼」
「もう良い。」
「父上‼」
「これで菖のもとにいける。」
「お父様…」


天井を見つめるその眼差しはどこか遠くを見ているように見えた。
今世で結ばれることのなかった二人がこんな形で一緒になるということに切なさだけが心を覆った。


「お前たちには本当に申し訳ないと思っている…。」
「父上…」
「遊、紫織と絃乃は悪くない…悪いのは全て私なのだ。今後二人がお前を傷つけることがあるかも知れないが、恨んでやるな…。特に絃乃は何も知らない。お前の広い心で許してやってほしい…。」
「…はい。」
「もし、絃乃が真実を知った時は…」


―誰にも届かない。

prev next
back