【35】勿忘草はいつだって
私の名は
"
時鳥"
はるか昔、時を司る神として生まれ、人の手によって刀にされた。
人は私をめぐって争うようになった。
時を操る力は人間が喉から手が出るほど欲しがる能力らしいが、みなが考えるほど良いものではない。
魅力的に感じるところはあるかも知れないが、身を滅ぼすほどの力さえある。
それは私自身がよく理解している。
何代にも渡り人を狂わせ、世界を滅ぼしかけた。
その負の連鎖を止めてくれたのが、時園家だった。
私は時園家と契りを交し、未来永劫世界の均衡を守る役割を託した。代わりに必ず私はその代の選ばれし主人を命に変えても守ると誓った。
万が一私の力を利用しようとする者が現れたときに、私を制御できるようにと私の一枚の羽根を使って作ったのが
時鳥だった。
日本の斬魄刀を司るため、尚且つ私たちを巡って争いが起きないようにするためにも時園家には代々二人しか生まれるようした。
時園家と契りを交わして数百年が経った頃、当主の創次郎は息子が一人いた。
架絃が生まれた時、目を輝かせて彼を見る時鳥に私の主人ではないなと分かった。
二人目の絃乃が生まれた時、彼女も私の主人ではないと思った。彼女でなければいけないはずなのに私の心が違うと言っている。
そんなある日だった。突然連れてきた小さな少女を見て私の心が高鳴った。この子だと、この子が私の主人だと脈打った。
一段と彼が愛でるその少女は彼の愛娘だと言う。そうか、私は君を待っていたよ。
まだ力の弱い遊はまだ私が見えない。
だけど、私は常に彼女の傍に寄り添った。私が彼女を守らなければいない。
「遊には何か不思議なものを感じる。
時鳥も懐くのは生まれて初めてかも知れない。」
「母親に似たんだろう。…素敵な女性に育って、幸せになって欲しい。」
「私が必ず守ると約束しよう。」
「君がそこまで言うなんて…あの子は本当に何かもっているのかも知れないな。」
庭で遊ぶ彼女を創次郎と見守っていると、彼女は一輪の花を持ってこちらに駆け寄ってきた。
「綺麗な花だな。私にくれるのか?」
「お父様じゃありません!今日は
時鳥にあげるの!」
「私に…?」
「うん!受け取ってくれる…?」
「遊…?!
時鳥が見えるのか⁉」
「見えるよ?いつもそばにいてくれてありがとう!」
遊、覚えてるか?
君が私に花を贈ってくれたこと、本当に嬉しかったんだ。
君が生きている限り君を守ると私自身に誓った日でもある。
今までは主人の命を守ることだけしか考えられなかった私が、初めて主人の幸せを願った。
君が生きている限り、君の幸せを守りたい。
だから、君に全てを還すよ。君の代価なんて私はいらないんだ。君のためなら何だってする。
君の笑顔を見ていたい。君のそばで、ずっと…。
「痛かったか…?」
「痛くないよ。」
「そうか…」
「私、死ぬの?」
「私が絶対に死なせはしない!…君は幸せになるんだ。」
「幸せに…?」
「そうだ。創次郎が願ったように、君の母君が願ったように…そして私が願っている。だから、これを君に還そう。」
「この花は…」
白くなってしまった花は少しずつ色を取り戻し、綺麗な青の色に戻る頃に君は記憶を取り戻すだろう。
君が初めてくれた花は偶然か運命か、それは綺麗な勿忘草だった。
―君のそばにいた。
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