【12】覚えてますか



真子に言われて気づいた。ボクが遊を信頼しているなら、迷う事などないよね。きっと千鉄さんも言うはずだ。


「遊、起きてるかい?」
「隊長?はい!」


真子と解散した後、すぐに隊舎に戻り遊の部屋へと向かった。いつもならきっと寝ているだろう時間だったが、遊の霊圧を感じた。思っていたよりも落ち着いている。
ボクが声をかけると、遊は扉を開けてくれた。そんな彼女は未だに死覇装を来ていた。


「まだ起きていたのかい。着替えもしないで…」
「あ…忘れてました。なんだか落ち着かなくて。」


あはは…と下手に笑う彼女は千鉄さんがどうなったかと気が気じゃなかったんだ。どうしてもっと早く来てあげなかったのかと後悔した。


「早く来ればよかったね。ごめんよ。」
「隊長が謝る事ないですよ!こうして来てくれましたし。」
「千鉄さんの事だけど、いいかな。」
「どうぞ、お茶入れますね。」


部屋の中に案内され、丁寧にお茶まで淹れてくれた。遊も向き合って座ると、二人ともふぅと一息吐いた。


「千鉄さんは病気の為に引退することになったよ。」
「…引退、ですか。」
「そう。残念だけど、千鉄さんとはもう一緒に仕事は出来ない。ボク達は千鉄さんの分までしっかりやっていかないとね。ボク一人じゃ不安だから遊も手伝ってよ?」
「はい…!」


よかった。思ったよりも遊は大丈夫そうだね。真子の言う通りだ。後でお礼を言わなきゃ。

それから数日後、千鉄さんは隊舎にあった荷物を片付けて挨拶をすませた。今にもこぼれるんじゃないかって涙を浮かべる遊に、「まだ死ぬわけじゃないけぇ、たまには遊びに来んさい」と肩を二回叩くだけのやり取りで、千鉄さんは引退をしていった。


「ローズ入るでぇ?」
「どうぞ。」
「惣右介もおんねんけどえぇか?」
「もちろん。」
「鳳橋隊長、失礼します。」


丁度いいところに真子と真子のところの副官である藍染くんが来て、座布団を出して勧める。いいタイミングで遊がお茶を持ってきてくれた。どうぞとお茶を出す彼女は本当に気が利くと思う。


「おおきになァ。」
「いえ、では、失礼しました。」


扉が閉まったのを確認し、真子を見ると扉をじっと見ていた。


「彼女が気に入ったのかい?」
「イマドキ、一目惚れってアホか。」
「なんだ、違うの?」
「気が利くなァ思うただけや。」
「そうでしょ。彼女がボクが話してたうちの三席。真子の言った通りだったよ。」
「あぁ、千鉄サンのファンの子か。」
「ファンって…」


だって、そうやろ?なァ、惣右介ーって藍染くんは知らないだろうに…。
とりあえず、真子にお礼は告げた。少なくとも彼の助言のおかげで少しでも早目に遊に報告が出来たし、彼女も死覇装で寝るハメにならずに済んだ。


「それで、射場副隊長の後任はお決めになられたのですか?」
「おー、そやそや!それを心配しとったんや。」
「あぁ、もう決めてあるよ。千鉄さんにも相談して、うちの三席・風雅 遊にしようと思ってる。」


―突然のはじめましては一瞬でした。

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