【13】あの頃はいつも



「こんにちは〜。ローズ君いますかー?」
「隊長、普通に入れませんか。」


隊長の所へ五番隊の隊長と副隊長が来た。
名前は…たしか、平子隊長だったと思う。おりますと答えて隊首室までご案内した。前に隊長が平子隊長の事を名前で呼んでいたので、たぶん仲がいいんだ。先輩から聞いた事はなかったけど。
少し長居をするだろうと思い、急いでお茶を淹れてお持ちした。
隊首室に入ると隊長たちは何を気にするでもなく、楽な姿勢で話をしていた。それに反して副隊長は見本のような正座をして平子隊長のそばに座っていた。お茶を出せばこれまた見本のような笑顔でありがとうと言う。千鉄さんとはまた違う副隊長だと思った。


「おおきになァ。」
「いえ、では、失礼しました。」


声をかけられて顔を上げればキレイな金色の髪が見えた。素敵だなぁなんて見惚れそうになった。
鳳隊長だって金髪だけど、何かが違う。キラキラと糸のような髪だったからだろうか。


「遊、ちょっといいかい?」
「ぁ、はい。平子隊長は?」
「もう帰ったよ。」


気づかなかったかい?と優しい笑顔を向けられる。やっぱり先輩には見惚れそうにはならない。
うん、我ながら失礼だと思う。
隊首室に通されて、まぁ座りなよと言うお言葉に甘える。座るや否や、早速だけどと真剣な隊長に背筋がのびる。


「遊に副隊長になってもらいたいんだ。」
「…は?」
「君もなかなか失礼だね。隊長に向かってそれは無いだろ?」


先輩、クスクスと笑ってるけど、いや、笑ってる場合なのか?待って待って、私が、副隊長…?


「千鉄さんとも話し合って決めたんだ。まぁ、ボクの背中を任せられるのも君しかいないしね。」
「ありがたきお言葉、身に余る思いです…、ただ、正直…その…」
「即決は出来ないか…。遊の事だから、そう言われるとは思ってたよ。」
「嫌とかじゃないんです!尊敬するお二人から推挙していただけるなんて、本当に…本当に…」
「わかってるよ、遊。だから、少し時間をあげるから考えてくれるかい?」


先輩はこうやって選択肢をくれる。
ちょっとびっくりしただけ。そう、自分の中で答えは決まってる。けど、すぐに副隊長になるなんて恐れ多くて…。

隊長にお話をいただいた後の事はあんまりはっきり覚えてなくて、気づけば書き終わった書類を各隊に配り歩いていた。


「遊、なんちゅー顔してんねん。」
「リサちゃん…。」


昔からの友人である矢胴丸リサちゃんだった。こんな時も美脚だなぁなんて思う。
リサちゃんは八番隊の副隊長さんをやっている。


「聞いたで、副隊長に選ばれたんやろ。」
「情報早いね…」
「ローズがあんたしかおらんって言っとったで。」
「先輩が…」
「あんたの性格や、絶対悩んどると思った。」


何悩んどんねんって隣を歩くリサちゃんは真っ直ぐ前を向いていた。眼鏡の奥のその瞳は力強くて、私もこんな風になれるんだろうかと不安がよぎる。


「副隊長になりぃや。遊なら出来る。」
「え?」
「三席でぐずついとる場合ちゃうやろ。遊は責任感強いからな、ごちゃごちゃと考えてるんやろうけど、あんたは元々習うより慣れろってタイプや。考えとらんとやりぃ。」
「…たしかに。ありがとう、リサちゃん。」


―誰かが背中を押してくれました。

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