【16】あいもかわらず
「真子!早く起きんかい!」
ドカッと言う衝撃ともに目覚める。最悪やんけ。
なんやねん。しかも、久々にあいつの夢を見た。
「ひよりか…」
「ひよりか…ちゃうわ!何寝ぼけとんねん!みんな食べ終わったで!いつまで寝てんねん!」
「…悪い。今行く。」
「ぅお、お、おう…。はよしぃや…?」
着替えを済ませ、リビングに向かう。リビングっちゅうリビングではないけど、みんながくつろぐには十分なスペースや。おはようさんと挨拶したのに返ってこうへんくて、何かと思えばみんなこっち見とるやんけ。
「な、なんやねん。」
「お前、調子悪いのか?」
「ひよりに蹴り起こされたのに怒らなかったって言うじゃない。」
「ちゃうで!ローズ!怒らなかっただけやない、あいつ悪いって謝りよったで!」
「なんや、あかんのかい。」
「しんずぃ、ひよりんに謝れるんだねー!」
「なんだ、真子熱でもあるんじゃねーのか?」
どうしたどうしたとみんな騒がしくなって、めんどくさくなって台所に逃げた。ちゅうか、俺は何者やねん。謝るくらい出来るわ!
冷蔵庫から水を取り出して飲む。
プハァって飲み干せば、皿を洗うリサと目が合う。
「なんや、お前もなんか言いたいことあるんか。」
「別に。変な汗かいてどないしたん。発情期か?」
「ちゃうわ!アホか!」
「否定しなくても男やし、そんなもんやろ。」
おーい、聞いてますかー?って言うが、リサは黙々と皿を洗いよる。心配しとんのか茶化しとんのかわからへん。なんやねん。
「で、なんかあったんか?」
「え、あー、まぁ…久々に、夢見ただけや。」
「夢?悪夢かなんかか?」
「いや…、あいつの夢や…。」
「真子…」
「なんや?」
リサが俺の心境を察してかいつもに増して真剣な顔で見つめてきた。俺もあかんな、みんなに心配かけてしもうて。こいつらだってあいつの事忘れるわけない。ローズにとっては部下、リサにとっては友達、俺にとっては…
「…きっしょ。」
「はぁ!?」
「今さら何思い出に浸っとんねん。きっしょ。」
「きしょいきしょい言いなや!」
「おーい、みんなー、真子がきっしょいでー。」
「きしょくないわ!」
まぁ、リサの言うことも合うてるか。100年経っても思い続けとるってなんやねん。
着いてこようとしたあいつを制して、何も言わんと置いてきた。あいつの慕っとった上司も仲良かった友人も奪った。
約束も破ってしもうたな、遊。お前は今何を思う?俺を憎んどるんやろうか。嘘つきや言うて怒っとるやろか。それとも俺らの事なんかとうに忘れて、幸せになっとるやろか。それならそれでええ。
なぁ、遊…
「夕飯の皿洗いは真子ね。」
「なんでやねん!」
「最後に起きてきたからや。」
―俺はここで生きとる。
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