【20】安心してほしい



「あの…副隊長?」
「なんでしょう?」
「これは必要ですか?」


そこにはどこから持ってきたのか、籠いっぱいの花びらを抱えた七緒さんがいた。いつ使うんだろうなんて呑気に考えているとドォン!って大きなお音が響き、下を見れば隊舎の壁を見事にぶち抜かれていた。あれ直すの大変だな…。


「来ますよ。」
「でも、確か下には円乗寺三席がいらっしゃるはず…あ……。」


さっき…

「私、円乗寺辰房にお任せ下さい!必ず旅禍をここで止めるのであります!」

って意気込んでいたのに。
第三席である彼は副官補佐も務めているのにも関わらず、隊長・副隊長のそばに居る私の事をいつも睨むように見てくる。お手合わせさせて頂いたこともあったけど、五席が三席に勝つわけにはいかず、いつも上手く引き分けにもっていっていた。
だからと言って、まさかあんなに簡単にやられるとは思ってもいなかった。


「あ、隊長の登場のためにこれを!」
「散らせるようにと言われました。」
「なるほど!…ぁ、でも、副隊長…ちょっと量が…あ、ちょっとこれでは隊長よりも花びらの方の主張が…」
「……」


日頃のストレスを発散させているのか、持っていた花びらをどんどん隊長の上に散らせていた。だけど、さすがの隊長も下の方でもういいよーって叫んでますよ七緒さん!
あぁ…、隊長…LOVEリー七緒ちゃーんとか言うから、副隊長怒っちゃってるじゃないですか…。花びら準備してくれただけでもすごいのに。最後には籠をひっくり返して、散らすと言うより掛けるって感じだった。


「さぁ、遊さん移動しましょう。ここでは隊長の邪魔になってしまいます。」
「あ、はい!」


少し離れたところに移動すれば、先程の旅禍が隊長に向かって撃ち込んでいる。あれはなんだ…鬼道でもなさそうだ。しかし、さすがわが隊の長である。どの攻撃も躱している。
あの子も…なぜそんなに戦うの?命を削ってまで、そこまであなたを動かしてるのは何?
羨ましかったのかもしれない。私には、もう命をかけられるほどの何かがもうないのだから…。
せめて、隊長のために、八番隊のために尽くすことしか残っていない。


「隊長が、斬魄刀を抜きましたね。」
「そうですね。彼はここで終わります。」
「……。」


旅禍が最後の一撃を放ったが、隊長はそれを躱すと彼を斬った。見事な太刀筋。尸魂界でただ二つ、二刀一対の斬魄刀。始解するとより美しい。
旅禍の動きがないのを確認して、隊長のそばに行くとボクは無事だよーと少しだけ笑顔を見せてくれた。


「お見事でした。」
「そうでしょー?ボクは強いからね〜」
「存じております。…春水さん、私はもう大丈夫ですよ。もう怖くはないです。」
「…そうかい。」


あなたの背中を見送っても泣かなくなったんです。置いていかれて泣くのは、相手に対して失礼なんだって教えてもらったから。
泣くなら強くなろうって決めたから。


―私ならもう大丈夫ですよ。

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