【30】疑うということは
あの日の朝のことは今でも覚えてる。
前日の夜に緊急招集された隊長達は特務部隊として抜擢され闇夜に消えていった。その日だけは緊急招集や彼らの任務に言い知れぬ不安を抱いていた。そんな私の頭を撫でておやすみと笑った彼を見て気のせいだと誤魔化した自分もいた。
そうだ、あの五人がいて何か起こるわけがない。そう思って隊長と彼に言われた通り部屋に戻っていつも通り眠りについた。
「本日早朝、九番隊六車隊長、久南副隊長、十二番隊猿柿副隊長及び魂魄消失案件の始末特務部隊の八名が"虚"として処理され、殉職されましたことをご報告に参りました。」
朝起きてみれば、見知らぬ裏廷隊の方にそう告げられていた。そうして私の日常はいとも簡単に奪われた。
「昨晩の魂魄消失は浦原隊長の実験によるもので、僕達の隊長は犠牲になってしまった…」
「……」
急に十名もの隊長格がいなくなるという緊急事態に隊長と副隊長に招集がかかった。まだ起きたばかりで思うように働かない思考でまだ現実味がないように思えたが、いつもの定位置についても前に鳳隊長もいなければ、いつもの様におはようさんと言ってくれる彼もいなくて、少しずつ何かが私の心を蝕んでいくような感覚に襲われていた。
そんな私の隣で当時彼の副官だった藍染隊長がそうつぶやいた。
「以上、新しく任命される者が決まるまでは副隊長を中心に動くように。隊長は隊長不在の隊を補助するようにお願いいたします。」
風雅さんと呼ぶ彼は大丈夫かと聞いてきた。大丈夫なわけが無い。よくよく考えてみれば、私が失ったのは愛する彼と自分の尊敬する隊長だけではなかった。私をよく知る親友もみんなみんないなくなってしまったんだ。
「浦原隊長と加担した握菱大鬼道長、そして二人の逃走を手助けした四楓院隊長の行方はまだ掴めていないようだよ。」
「そう…。」
「…憎くないのかい?」
「……憎い?」
そうか、喜助さんのせいでこうなったのか…。でも、憎めなかった。頭ではそう思っても、心では喜助さんがそんな事をしたとは思えなかった。思いたくなかっただけかもしれないけれど。喜助さんはそんな事しない、そう言い聞かせないと誰かのせいにしたくなるから。
「遊さん」
「あ、卯ノ花隊長。」
「戦闘中だと言うのに考え事ですか?」
「すみません、ちょっと懐かしい人を見たものですから…つい昔の事を思い出していました。」
「倒れている方々を四番隊へ連れていきます。あなたの力も貸してください。」
「分かりました。」
卯ノ花隊長は私のその一言で何も言わずに負傷者の元に駆け寄るトキを横目で見た後、愛刀の肉雫ロ妾を解放した。
私は少しだけ空を見上げた。
―それは信じる以上に難しいのかもしれない。
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