【35】止まっていた時計の針は




ぼーっと空を見上げて、白夜月を見上げる。もうすぐ日没なんだなぁ…なんて呑気に考えていた。


「行かなくてよかったのか?」
「どこに?」
「見送りに。」
「あぁ…夜一さん?」
「そう。」


隊舎の屋根で寝そべる私の横にトキが腰を下ろした。今日、夜一さんは一護くん達と現世へ"帰る"。
見送りには行かない。旅禍である彼らとは私も見送りに行くような仲では無いのだから、私が行ったら少々違和感がある。…いや、大分アウェイ感が否めない。


「遊、あうぇいって何?」
「トキ、そこは気にしなくていいから。」
「あうぇい…?」
「とにかく、ほぼ部外者の私がいたら変でしょって話。夜一さんとは話せたからいいの。」



いつか会えるその日まで、彼らにガッカリされない私にならなきゃ。そう考えたらやることが沢山ある。


「トキ…」
「何?」
「ありがとう。」
「な、何が?」
「ずっとそばにいてくれて。…トキがいなかったら、また真子さん達に会うことなんか出来なかったかもしれない。」
「まだ会えていないだろう。」


なんでそんな事言うの!って叩いてみれば、何だかトキも嬉しそう。叩かれる直前で食い止めた私の手を握って早く会えるといいねと言ってくれた。
会いたいよ、真子さん。会えたらなんて言うのかな。迎えに来るのが遅いとか言うのかな?


「遊ちゃん、トキくん、危ないから降りておいで〜。今から皆でご飯食べよう。」
「はい!今行きます。」
「今日は飲むよ〜」


下から私たちを呼ぶ京楽隊長の声に二人で顔を合わせて笑った。少しだけいつもの日常を味わってもいいかな。明日からあなたに会える日に向かって生きるから。


「さぁ、遊、行こう。」


―ちゃんとまだ動くんだ。
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