【9】色づいていく世界は



「どうぞ…」
「わざわざありがとうございます。」


二つ縛りの女の子が丁寧にお茶を出してくれた。
ちゃぶ台を挟んだ向こう側には甚平と帽子を被る喜助さんが座っていた。
女の子が部屋を出て戸を閉めた瞬間、喜助さんは座布団の横に正座をし帽子に手をかけた。


「遊サン!!」
「あ!謝らないで下さいね!」
「えー…」


なんとなく謝られそうな気がして、それを制した。
やるせない表情の喜助さんは昔と大して変わらない感じがして嬉しいな。


「夜一さんからお話は聞きました。私は怒ってないです。むしろ、皆を助けてくれてありがとうございました。」
「遊サン!頭を上げてください…!」


喜助さんがしようとしていたように頭を下げると、まいったなと後頭部を掻いていた。
二人とも座布団に座り直すタイミングも同じでなんだかおかしくて喜助さんと笑った。


「今日はどんなご用でいらしたんっスか?」
「私は皆に会いに来ました。」
「彼らの居場所は…」
「あー、いえ!喜助さんに聞きに来たという訳でもなくて!彼らのことは自力で探します…。」
「遊サン…すみません…。」
「ここに来たのは喜助さんに会うためです。」


100年前を懐かしむ相手に会いたかった。ただそれだけ。まだ彼には会えていないけど、それでもただこの100年を乗り越えてきてよかったと思いたくて、彼を助けてくれてまた会うチャンスをくれて…


「ありがとうございます。」
「え?」
「皆を…真子さんを助けくれて…。その気持ちを伝えたくて来ました。この100年は無駄じゃなかった、生きててよかったと思えた…。喜助さんやそこにいらっしゃる握菱さんや夜一さんのおかげです。」
「遊サン…あなたって人は…」


心からの言葉だ。やっと私の時間が動き出したんだ。こうやって懐かしい人に会うほど白黒の世界に少しすつ色づいていくような感じ。彼に会う頃にはきっと色鮮やかな世界が待っているのかな。


「もう行くんスか?」
「はい。外に部下も待たせてますし、この後織姫ちゃんの家に合流することなってるので。」
「そうですか。…彼らの居場所はお教えしたい所ではありますが、すみません…。」
「いいんです。元々聞くつもりはありませんでしたから。…また会いに来てもいいですか?」
「もちろんっス!」


昔と変わらぬその笑顔に心がほっとした。皆もこうして私を受け入れてくれるだろうか。
あの日見た夢を思い出しては気持ちが下がってしまう自分を自分で励ましてはの繰り返しだ。


「お待たせ。」
「おかえり。もういいの?」
「うん、ゆっくり話せたよ。阿散井くんも待たせちゃってごめんね。」
「気にするな。」


ありがとうと一言だけ添えると今から日番谷隊長達と合流するんだろと言う阿散井くんに別れを告げた。
さぁ、ひとまず仕事をしよう。


―それでもまだ二色くらいだ。


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