【10】女である前に



「普通、住所とか聞いてあるものではないか?」
「ごめん、乱ちゃんが自然に行っちゃったから聞きそびれちゃったの。」


織姫ちゃんの家に向かおうとするも家の場所を知らないことに今更気づいてトキに怒られてしまった。
だいぶ日も落ちて暗くなった頃、隊長と乱ちゃんの霊圧を探りながら織姫ちゃんの家にたどり着くことができ、トキは屋根にいる隊長の所に行くらしく私は一人で扉の前に立っている。


「あ、遊!遅いじゃない!入って入って!」
「いや、ここ乱ちゃんの家じゃないよね…」
「そんな固いこと言わないで〜」


中に入れば色んな種類の甘味が座卓に並んでいた。…なんだろう、これは。ひとつも食べたいと思えない。遊さんもいかがですかと言ってくれた織姫ちゃんだったが、遠慮させていただいた。


「「!!」」
「乱ちゃん、この霊圧は…」
「私が行くわ。遊はここにいて。」
「わかった。」


突然異常なまでの霊圧を感じ取り、額に少しだけ汗が滲む。義骸から抜け出し日番谷隊長の元に向かった乱ちゃんと入れ替わりでトキが部屋に入ってきた。


「トキ、外は大丈夫なの?」
「破面が2体来たんだけど、隊長が遊と合流するようにって。」
「そっか…。隊長が言うなら大丈夫かな…。」


とは言ったものの、重たい霊圧がぶつかり合うのを肌で感じてしまえば不安になるものだ。大丈夫かなと不安そうにしている織姫ちゃんをここに留めておくことは時間の問題かもしれない。
他の皆は大丈夫なのだろうかと意識を集中すれば、やはり各地に破面の霊圧を感じる。全部で…6体もいるなんて…。


「遊!!井上さんが外に!!」
「え!?危険なのに…!!」


霊圧の探知に意識を集中しすぎて、やっぱり居ても立ってもいられなくなった織姫ちゃんが外に出ていく気配を察知することができなかった。危ないと腕をつかんで制止すれば彼女が友人の名前を呟いた。


「…!!」
「…冬獅郎くん…」
「落ち着いて織姫ちゃん。乱ちゃんは大丈夫…信じて。トキ、急いで限定解除の許可をとって。」
「わかった。」


このままでは、"限定解除"しなければ、きっとこの戦いは負けてしまう。その位破面は強いということ。
そして、恐らくここにいる彼らはまだそこまで強い相手ではないかもしれない。一回目の襲撃の報告と違うような気がする。




「遊!織姫!ちょっと来てお願い!!」


限定解除の許可も下りて戦った後、日番谷隊長は倒れ朽木さんも負傷したようで、呼ばれた私と織姫ちゃんとで治療にあたった。
朽木さんの治療をしている時の織姫ちゃんの顔は、見ているこちらも悲しくなるほどだった。痛いほど気持ちがわかるから…。


「…遊」
「乱ちゃん、ごめんね。」
「なーに謝ってんのよ!」
「遊びに来たわけじゃないのに、私は何の役にも立ってない。」
「バカね…誘ったのは私よ。あんたはあんたの事だけ考えなさい。それに、隊長の事助けてくれたじゃない。四番隊も顔負けね!」
「…ありがとう乱ちゃん。」


ここにいる以上、私はちゃんと役割を果たさなければいけない。いくら乱ちゃんがくれた機会だとは言え、私情ばかりでは動けない。
でも、きっとこの件と関わっていけば真子さんと皆と再会出来るはず。そんな気がする。
だから、まずは恩返ししよう。ここまで私を生かしてくれたたくさんの人のために…



―私は誇り高き死神でありたい。
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