【4】恐縮ですが



最近、遊が元気ない気がした。
空を見る回数が増えた気がする。遠くの空を見つめながら、その先にいる誰かを見つめているようにも見える。
私はその"誰か"を知っている。まぁ、会った事はないし、遊の話でしか存在は知らないけど、あの子の大切な人だったんだってことはわかる。


「トキ!」
「松本副隊長、お疲れ様です。」
「相変わらず、イケメンね。」
「それを言うためだけに呼び止めたんですか?」
「そして、相変わらず遊以外には冷たいのね。そんな訳ないでしょ。相談というか、聞きたいことがあったのよ。遊のことで。」


こいつは八番隊第六席の無限トキ。遊の直属の部下で、いつも遊の隣か半歩後ろにいる。
高身長でイケメン、スタイルもいい。男にしては中性で綺麗すぎる顔は護廷十三隊の中でも人気がある。まぁ、私はタイプじゃないけど。
必ず遊と一緒に行動してるから、昔から付き合ってるんじゃないかって噂になってるけど、前に遊に聞いた時にありえないと笑い飛ばされた。

「え?私とトキが?…ぷっ、あははははは!ないない!ありえないよ!トキは誰とも付き合わないよ、きっと。正しくは付き合えない…かな?」

なんて言ってたけど、こいつの遊に対する忠誠心が恋心から来るものだとしたら、同情するわ。
どちらにしても私からすれば、トキは遊の金魚のフンにしか見えないのよね。
ほら、こうやって今も遊の名前を出すだけで、態度も表情も変えちゃって。本当に付き合ってないわけ?


「遊がどうかしたのですか。」
「いや、どうってことは無いんだけど、なんだか最近元気がない気がしてね。親友の感ってやつなんだけどさ。」
「……」
「何も無いならいいのよ!」
「…100年、ですからね。」
「え?」
「遊の大切な人たちが消えて、今年でちょうど100年。」


そうだった。遊に昔聞かされた話だけど、あの子には昔大切な仲間と最愛の人がいて、任務中に何かに巻き込まれて亡くなったんだとか。遊も詳しくは知らないみたいで、悔しそうに話してくれたのを今でも覚えてる。
彼らの面影を追うあの子に周りは忘れろと言っけど、忘れようとしても出来ないのだと泣くあの子を見ていられなかった。
忘れることが出来ないんじゃない、忘れたくなかったんでしょ?
100年前に亡くなったあの子の仲間の存在はもう誰も覚えていないかもしれない。でも、遊は覚えてる。それだけで十分よ。それだけで、きっと彼らも救われる。いや、むしろあの子を救ってほしいと思った。
でも、そうよ、所詮死んだ人達に何が出来るの。今、遊のそばに居るのは私たちよ!そこから見てなさい、嫉妬するくらい遊を笑顔にしてやるわよ!


「100年ね…あの子にとってはあっという間だったのかしらね。」
「おそらく。…きっと、昨日のことの様に覚えているのではないかと思います。」
「彼らと過ごした十数年を塗り替えられない100年って…」
「松本副隊長…」


遊、私はあんたのために何が出来るのかしら。
とりあえず、みんなに声をかけて飲み会でもひらこう。
自分が飲みたかっただけでしょってあんたはきっと綺麗に笑うんだろうな。


―私の方が一緒にいる時間が長いのよ。

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