【13】何億万通りの



好きで、愛しくて仕方がない。
そんなん100年前からなーんも変わってへん。数秒目が合えば胸も高鳴るし、今すぐ抱きしめたくもなる。
せやけど、ここまで来て遊を巻き込みたくないと思うのも事実で、こうして突き放しとる。
遊に言葉を投げつける度に胸が痛んだ。


「……一つだけ聞いてもいいですか?」
「なんや?」
「私の事…考えてくれてましたか……?」


当たり前やろ。お前の事忘れたことなんか一度もない。100年経っていようと、俺の気持ちは変わらへん。


「…あほか。100年も経っとるんやで?わかるやろ。」


そんな俺の言葉に今にも泣きそうな遊の顔に一瞬怯みそうになって、目を背けた。


「何かあれば呼んでって言ったのに。」
「っ!お前いつの間に、どうやって…!?」


そこには例のイケメンがおって、後ろから遊の顔を手で隠すようにして立っとった。気配が全くなく、急に現れたこのイケメンに警戒して全員が抜刀した。


「お前誰や。」
「そんなに威嚇しなくてもいいじゃないですか。仲間に向かって刀を向けないでくださいよ。」
「誰が仲間やねん。死神と仲間になった覚えはないっちゅーねん。」
「…トキ」


その声で他の男の名前を呼ぶな。その目で他の男を見つめるな。
突き放している分際でそんなこと言う資格なんかないのかもしれへんけど、イケメンの手を退けて大丈夫だから、ありがとうとそいつを見る遊の姿に嫉妬心が湧く。


「部下の無礼をお許しください。織姫ちゃんの付き添いで来ただけですから、もうすぐ終わりそうですし私達はすぐ行きますので、お騒がせして申し訳ございませんでした。」


このイケメンは遊の部下らしい。あの時と同じように俺の事をじっと見つめてきおって、喧嘩売っとんのか。
そいつに行こうと言って俺らに背中を向けた遊がぼそっと言った一言に心が揺らぎそうになった。


「…今日は皆さんに会えてよかったです。みなさんが生きてて嬉しかったです…。…100年生きてきて良かったなぁ…。」
「っ…!」
「遊、井上さん終わったみたいだから行こう。」


遊はどんな100年を過ごしてきたんや…。
俺なんかおらんくても、そのイケメンがおったから平気やったんやろ?
なんでそんな悲しそうな声色で言うんや。
もしも、100年前、あんな事が起こらへんかったら……なんて、キショいな俺は…。


―もしもはなんの意味もなかった。

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