【15】同じ痛みは



「あ、朽木さん。」
「遊殿!なぜこちらに?」
「喜助さんに呼ばれた織姫ちゃんを迎えに来ました。」
「そうなのですね!」


ガタッと音を立てて浦原商店の戸が開いた。目の前には元気の無い織姫ちゃんの姿があった。


「井上…」
「…どうしたの?」
「何をそんなに…」
「…く…朽木さん…遊さん…」
「お、おい!どうした井上!?」


泣き出した織姫ちゃんを連れて場所を変えることにした。何があったのか聞くと、先日の破面との戦いで破壊されてしまった椿鬼くんがいまだに修復出来ていないことから喜助さんに戦力外通告を受けたらしい。
そんな喜助さんに朽木さんは怒った。
喜助さんはなんの考えもなくそんな事を言う人ではないとは思う。
けど、織姫ちゃんの思いは…?


「悔しくはないのか!!」
「く…くやしくないよ…」
「嘘をつくな!!」
「う…嘘じゃないもん!!くやしくなんかないもん!!ただ…ただみんなのといっしょに戦えなくて…」


"淋しいだけだもん"
そう、織姫ちゃんは言った。足手まといになるくらいなら淋しい方がずっといいだなんて…
心が痛くなる。


「織姫ちゃん、残される方がもっと淋しいよ。」
「っ!」
「残されたらもう何も出来ない。そんな時自分を責めることしかできなくなる。今よりももっともっと泣く事になる。だから、何よりも大切なのは自分がどうしたいのか…。一緒に生きたいなら、行くべきだと思う。」
「遊さん…」
「…聞け、井上」


朽木さんは足手纏いになるのは覚悟の無い者だと諭した。尸魂界での戦いでは彼女も活躍したはずだ。そして、朽木さんはここに居る。
覚悟があるのなら行った方がいい。100年後悔し続けた。その結果がこれだ。もう何を後悔すればいいのか分からないくらいどうしようもない気持ちになった。
こんな思いは誰にもさせたくない。
だから、この子のために何か力になりたい。
ただ自分の思いをすくいたいだけなのかもしれないけど…。


「…決戦に向けてできることは必ず有る筈だ。一緒に探そう…井上」
「織姫ちゃんはどうしたい?」
「…朽木さん…遊さん…」


だんっ!!!

なんの前触れも無くいきなり空から何かが降ってきた。


「!!!」
「な…!?」
「…ひ…ひよ里ちゃん…!?」
「連れてくで!ハッチが用事があんねんて!」
「え?ハッチさんて…」
「待って!ひよ里ちゃん!!」
「すまんな、遊。お前に用はないねん。」
「!!」


それだけ言うと織姫ちゃんを連れて飛んで言ってしまった。
ああ、結局彼だけじゃなく私は誰の心にも残っていないんだ。心に小さな穴が少しずつ広がっていく感覚を覚えた。
100年耐えてきたのに、なんでどうして、話も聞いてもらえないのかって、欲深くなっていく自分に嫌気がさす。


「…な…何者なんだ一体…!?」
「あ…どこに連れてかれたのかは分かってるから大丈夫。行きましょうか。」
「…遊殿…?」


―もう誰にも味あわせたくない。



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