【6】今思えばあれは



飲み会も終わって隊舎に着き、部屋に入った。
七緒副隊長におやすみなさいと告げて部屋に戻ろうとした時、大丈夫かとトキに聞かれた。
大丈夫よ。何も変わらない。100年前と何も…

布団に入ってみたけど、眠れない。最近そんなことが増えた。眠れば必ず昔の夢ばかり見るし、なんで今更とも思ったけど、考えてみればあの日からだ。


数ヶ月前のある日。
いつもと変わらない日のはずだった。
珍しくトキは疲れたからと仕事を休み、その分の仕事がほとんど回ってきて、私一人残業するハメになった。
いつも助けてくれてるから文句は特になかったけど、ずっと出勤も休みも一緒だったトキが休むなんて言うから少し心配だった。


「おや、遊ちゃん、まだいたのかい?」
「隊長、お疲れ様です。」
「お疲れさん。あー、トキ君お休みだっけねぇ。珍しいんじゃない、あの子が休むなんて。」
「そうですね。」
「まぁ、仕事もその辺にしてさ。遊ちゃん、どうだい?ボクと一杯付き合ってよ。」


手でクイッとお酒を飲むような動作をした京楽隊長の誘いを断る訳もなく、準備してるから片づけたら隊首室に来てね〜と言う弾むような声で出ていく背中を見送り、作業途中の書類を閉じた。


「隊長、失礼します。」
「入って入って。」


戸を開けると窓際にしっかりと飲む準備が出来ている。机の上にはお酒とつまみが少し。最初から飲む気だったな、この人は。大方一人で飲むのは寂しくて、隊舎内で仕事をする私の霊圧を見つけて呼びに来たんだろう。


「少しだけですよ。」
「まぁ、そんな事言わずにさ!はい、遊ちゃんの分。」


お猪口を渡され酒を注がれる。無礼講だから先に注いじゃうよーって、隊長だいぶご機嫌だ。
乾杯ってお猪口が控えめに音を鳴らす。
窓の外には綺麗な夜空が見えて、どこかから飛んできた桜の花びらがひらり舞っていた。
もう春だ。こうして一年、また一年と過ぎていく。


「なんだかんだ、もう100年経つのか。」
「はい。長かったようなあっという間だったような…」
「彼らのことを思うと100年しか経ってないって思うだろう?」
「そう、ですね…」
「そうだよねぇ。でもね、遊ちゃん、ボクはこの100年をこう思うんだ。"約100年もの間、遊ちゃんが八番隊にいてくれてる"ってね。」
「隊長…」


この人がいなかったら、今の私はいない。
あの時、未来なんて見れなくて彼の元に行きたくて行きたくて。そんな私に生きなきゃダメだって引っ張りあげてくれた。トキと一緒に八番隊に迎え入れてくれた。
この人には本当に感謝しかない。


「遊ちゃんを三席で迎えたかったのに、五席じゃないとやだーって駄々こねちゃって、あの時は困った困った!」
「"五"を背負っていたかったんです。というか、駄々こねてないですし、隊長だってすんなりいいよって言ったじゃないですか!」


そうだったっけかぁって大きく笑った隊長は、100年経っても相変わらずだ。おや、と声を上げた隊長の目線の先には先程の夜空で…


「彗星かぁ。随分珍しいものが見れたね。」
「別名…箒星。」
「箒星?」
「……箒星には不吉をもたらすって言い伝えがあるそうですよ。」


箒星は彼を連れていった。久しぶりに箒星を見たあの日から眠れぬ夜が続いている。何かを私に訴えかけるかのように。


―星の知らせだったのかもしれない。

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