【36】君に投げた勿忘草の花言葉は




「でも、本当はあの時…」
「ん?」
「"私を忘れないで"って伝えたかったんじゃないんだ。」


遊は勿忘草の思い出話の続きを話してくれた。


「勿忘草にはもう一つ花言葉があって……"真実の愛"って言うの。」
「なぁに!すごいロマンチックじゃない!」
「でしょ?」


遊は言った。
昔、母に真実の愛で好きな人と結ばれなさいって言われた事があって、でも、その時は真実の愛が何なのか分からなかった。
真子さんと出会って、好きになって、付き合えることになって…その時初めて母に言われた事が理解出来た。


「遊のお母さんはなんて言ってたの?」
「"真実の愛は相手の短所を許し補うこと、そして、相手を無償で助けてあげること。"」
「へぇ! 遊のお母さん素敵な事言うのね!」
「うん。そんな無償の愛をお互いに贈り合える人との愛が真実の愛だって…」


勿忘草を大切そうに撫でる遊は愛おしそうに、切なそうに続けた。


「そんな相手だと思えたのは真子さんだけだったから…、私、ずっとそばに居たかった。何もいらないから、ただそばに居て一緒に幸せになりたかったの。…あの時は恥ずかしくて言えなかったんだよね。」
「遊…」
「いつか私の想いを伝えて幸せにしてあげよう!…なーんて思ってて…」


まあ、それは叶わなかったけど…と切なげに笑った遊の顔は今でも忘れない。


「何十年経っても、私は真子さんに恋してるし、愛してる…」


あの日二人で見上げた空は今日と同じくらい、ムカつく程気持ちのいい青空だった。


―真実の愛を君に。

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