【7】私たちの約束



「ねぇ、トキ…?」
「なんだ?」
「そもそも、私…100年前って何があったんだっけ…?」
「!…あー…遊は覚えてないか…」


トキが切なそうに見えるのは気のせいだろうか。
いや、それはトキに限ったことではなかった。乱ちゃんも京楽隊長も、私の周りの人が皆同じような表情をする。
私の記憶の曖昧さが誰かを傷つけているんだ。

なんとも言えない空気の中、部屋の外から入るぞとお兄様の声が聞こえた。


「そなたも来ていたか。遊、食事が終わったばかりだが、どうする?今後の話をするか?」
「はい。」
「遊、無理をしなくてもいいんだぞ。隊長達も事情は分かってくださっているし…」
「いいの、トキ。私早く"元"の生活に戻りたい…。」
「それではまず遊の症状についてだが、先日の藍染との戦いでお前が使った卍解の代償のようなものだ。副作用と言った方がわかりやすいか。
まだ卍解を扱い慣れていないせいもあるだろう。お前の身体はある一定の時間を繰り返しているんだ。」


"無限時間反復"だとお兄様は言った。
私の身体は使いすぎた霊力を回復しようとしているのに、時間を操ったせいで"私の身体の時間"が少し回復すると回復前の状態に戻ってしまうらしい。

この状態を治せるのはお兄様だけ。
なぜなら、私の斬魄刀時鳥ほととぎすを制御できるのは、お兄様の斬魄刀"時鳥ときつどり"だけだから…。


「昨晩から時鳥ときつどりで制御してはいるが、私も初めてで少し手こずっている。悪いが少しだけ我慢してくれ。」
「いえ、ありがとうございます。」
「どうしてあなたがここにいるのよ…」
絃乃ふさのさん…」

時園 絃乃ときぞの ふさのさん。時園家の次女であり、噂では鬼道衆にいると聞いていた。
時園家を出てからの事はあまり知らない。


「帰ってきていたのか。」
「兄上、なぜ!」
「母上だな、お前に連絡したのは。はぁ…悪い、遊、また明日来る。ゆっくり休みなさい。」
「ちょっと!聞いてるの!?」


絃乃さんの話を聞いているのかいないのか、お兄様は部屋から出ていった。
きっとお兄様なりの気遣いなのだろう。100年以上前の事だけど、彼女との事は忘れていない。けど、約束通り恨んでなんかいないよ。

―お父様との最後の約束だもの。

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