【9】不思議なことに



「遊ちゃん、おかえりー!」
「本日隊に復帰致します。」
「待ってたよ。見違えるほど元気になったね。まぁ、復帰と言ってもまだ万全では無いだろうからあまり無理しないように。」
「はい。お心遣いありがとうございます。」


じゃあ早速と復帰の挨拶がてら書類を持って行くように頼まれた。
渡された書類を持っていく隊ごとに分けていると七緒さんが隊長に大切なことが抜けていると声をかけていた。


「あぁ、そうだったね。遊ちゃん、この前の戦いでいくつかの隊の隊長が不在になっただろう?さすがにずっと空席なのは良くないってことで新しい隊長が就いたんだよ。今度ボクと一緒に挨拶に行こうね。」
「あ、はい、わかりました。」


いってきますと書類を持って隊舎を出た。トキは自分の仕事があるらしく、終わり次第駆けつけると言ってくれた。そんなに心配しなくてもちゃんとやれるのにな…。

まずは十番隊に行くと、乱ちゃんの抱擁が待っていた。松本と少し苛立ちの含んだ日番谷隊長の声が聞こえて、なんだか日常に戻ったみたいで嬉しくなった。


「ご心配おかけしました。本日から復帰致します。」
「ああ、ご苦労。」


どことなく二人が寂しげに見えた。あの戦いで失ったものは大きかった。
支えてもらった分、二人にも返していきたい。

四番隊に行くと卯ノ花隊長が暖かく迎え入れてくださった。


「お加減はいかがですか。」
「はい、おかげさまで復帰する事が出来ました。」
「お元気そうでなによりです。あまり無理せず日々の業務に戻ってくださいね。」


失礼しますと四番隊隊舎を出た。これで体調不良にでもなった時には卯ノ花隊長の逆鱗に触れることだろう。
ここは万全の状態になるまで大人しくしていようと思った。


「さて…あとは…十三番隊、かな」
「遊!!!」
「ぇ、なに…!?」


急に左腕を掴まれたせいで持っていた書類を落としてしまった。散らばった書類から掴まれてる腕の方を向けば、そこには知らない金の髪をした男性が立っていた。

走ってきたのか少しだけ額に汗をかいた彼は驚いた様子で、だけどその表情には不安も感じ取れた。
思わず大丈夫ですかと汗を拭いてあげようと手を伸ばせば、右手も掴まれてもはや身動きが取れない。

でも、それすら振り払えなかったのは目の前の彼が今にも泣きそうだったから。


「どこにおったんや…遊…」


―知らないこの人を怖いとは思わなかった。

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