【12】あなたの痛み



「どこにおったんや…遊…」
「…あー…えっと…すみません、「いや!責めてるわけやないねん!」


不安そうだった彼は一瞬で姿を消し、慌てたように怒ってる訳では無いのだと言ってきた。
いや、そもそも私はこの人を知らない。なんなのこの人…?


「…!失礼しました!もしかして、新しく隊長に就任なさった方ですか?」
「…は?」
「ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ございません。」
「何言うてんねんっ!」
「痛っ…!」


隊長羽織に気づいて、この人が隊長だという事は分かった。ただ知らない人だと言うことは、さっき京楽隊長が仰っていた新しい隊長で私がまだ挨拶に行ってないから引き止められたのだと思ったのに、目の前のこの人は怒っていて、私の腕を掴んでいた手に力が入って痛みが走った。
さすがに男性の力には勝てない。


「あの時俺が追い返したからそんな態度とるんか!?悪かったと思うとる…やから、こんな…知らん奴みたいな事せんといてや…」
「…っ…!」


この人の痛みがわかるくらい気持ちが伝わって、私も泣きそうになった。


「お前の為に戻って来たんや…」
「私の…為…?」
「その手を離してください、平子隊長。」
「トキ…」
「遊、遅くなってごめん。平子隊長、申し訳ございません。風雅は本日復帰した隊員です。新隊長就任の話も先ほど知ったばかりなので、まだご挨拶に行けておらず失礼いたしました。」
「…何のつもりや、トキ。」
「遊、事情は私から説明しておくから、書類を拾って仕事に戻って?」


だけど、と言いかけた私に大丈夫だからと言うトキの強い眼差しにわかったとしか言えなかった。
書類を拾って二人の方に向き直した。


「じゃあ、私は元の仕事に戻ります。"平子隊長"、失礼しました。また後日ご挨拶に伺わせていただきます。」
「っ…」


何か言いたげな隊長の様子にこの場を去り難かったけど、トキが大丈夫だよと言うのでそのまま十三番隊へと足を向けた。


―伝わってくる痛みがどんなものかはわからない。

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