【14】どちらがだなんて



「トキくんは遊ちゃんが一番辛かった時から一緒にいるもんで…あんな態度をとってしまって申し訳ないね。」
「いや、彼の意見も一理あるんじゃない?正直、ボク達の方が遊といた時間は少ない。」
「ローズ…!」
「だって、そうじゃないか。遊はボクの後輩で部下だったけど、彼が言う100年には敵わないほど一瞬だった。」


鳳橋クンはそう言って遠いどこかを見ていた。
彼も平子クン同様忘れられてしまった一人な訳だが、彼が一番悲しく感じてもおかしくないと思う。
ボクももしリサちゃんや七緒ちゃん、そして遊ちゃんに忘れられてしまったらそれはそれは悲しいと思う。
恋人ではないものの、長年共に過ごし共に乗り越えてきた彼女に忘れられてしまう気持ちはボクには計り知る事は出来ない。


「京楽隊長、遊は相当苦労したんだね?」
「まぁ、そうだねぇ。君たちが虚として処理されたと報告されて…」


遊ちゃんは数日は動く人形かのように働いていた。
隊長が居なくなってしまった三番隊をどうにか自分が支えなければいけないと言う責任感と、動くことを止めてしまうと喪失感に襲われてしまうからだ。
そんな事を繰り返していたある日、ついに倒れてしまった。


「目を覚ました遊ちゃんは精神が崩壊寸前だった。」
「⁉」
「君たちの名前を叫び呼んだり、夜中に君たちを探し回ったり…」
「遊…」


あの頃はまだ遊ちゃんの事はよく知らなかった。

少し前の新しい副隊長の紹介で真面目な子だなと思っていた。そして、彼女もまた同じ様に彼らに残されてしまって頑張っている仲間の様だと勝手に思っていた。
その子が大変な状態だという話が飛び込んできた。


「ご苦労様〜」
「京楽隊長‼お疲れ様です‼」
「風雅副隊長はどこかな?」
「あ、こちらです…。」


四番隊に預けられていた彼女を見舞いに行けば、四番隊でも奥の方の部屋に案内された。


「だいぶ精神的にきているようで…。こちらの部屋で様子を見ています。」


部屋の扉が開くと、彼女の悲鳴が聞こえて心が痛くなった。


「どこ⁉置いていかないで‼」
「ああ、また…風雅副隊長、落ち着いてください!!」


壁に掻きむしった痕跡があり、彼女の手は血まみれで、その手で触ったのか顔にも少し血がついていた。


「女の子の手なのに、こんなに血だらけで可哀想に。」
「っ!」
「京楽隊長!お手が汚れます!」
「ああ、大丈夫大丈夫。少し二人にしてくれるかな?」


見ていられなかったボクは気づいたら遊ちゃんの手を握っていた。
ボクを見つめる遊ちゃんの怯えた表情は今でも忘れない。


「…だれ…?」
「自己紹介が遅れたね。京楽春水だ。これでも八番隊の隊長をやらせてもらってるんだよ。よろしくね、遊ちゃん。」


その日から彼女に会いに行く日々が始まった。


―きっと君には関係ないよね。

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