【17】この日をどれだけ



「やぁ、今日復帰だったね。」
「はい。ご心配お掛けしました。」
「体調はもう大丈夫なのかい?」
「おかげさまで。浮竹隊長もお元気そうで良かったです。」
「君の治療のおかげだよ。」


トキに仕事に戻るように言われて、最後に向かう予定だった十三番隊に来た。
書類だけ置いていくつもりが副隊長代理のお二人に出くわしてしまって、隊長を助けていただきありがとうございますと深々と頭を下げられた。
大したことはしていないと頭を上げるように言うと是非隊長に会って行くようにと案内された。


「浮かない顔をしているね。何かあったのかい?」
「あ…すみません…。私、何か大切な事を忘れているみたいで…」
「!…誰かに、そう言われたのか?」
「いえ!でも、皆さんの様子を見ているとそんな気がして…。それに…浮竹隊長は、平子隊長をご存知ですか?」
「!!」
「やはりご存知なんですね…」


浮竹隊長の反応を見て私が彼のことを"知らない"のではなく、"覚えていない"のだと悟った。
きっと新しく就任した他の隊長もそうなんだろう。


「失礼するよ〜」
「京楽…」
「遊ちゃん、迎えに来たよ」
「隊長、私…」
「すまないね、君をこんな表情にさせちゃって。不安にさせたかな?ちゃんと説明するから隊舎に戻ろう。」


浮竹隊長に挨拶をして外に出ればトキもいて、私の様子を見て隊舎まで手を繋いでいてくれた。

執務室に入り、隊長と向き合って座る。
トキ君は同席させなくて良かったのかと言われたけど、大丈夫ですと答えた。


「平子隊長と会ったそうだね。」
「はい…」
「そっか。驚いたかい?」
「はい…少し…」
「そうだよね。長く悩んでしまったせいで君を不安にさせてしまって本当に申し訳ないと思ってるよ。」


目尻が下がって申し訳なさそうにする京楽隊長からは優しさが伝わってくる。
この100年、とても大切にしてもらってきた。
…この100年?


「今君を不安にさせている事について説明してもいいかい?」
「お願いします。」
「うん。遊ちゃんは平子隊長を含む数名の隊長格の人達との記憶がないんだ。」
「記憶が…ない…?」


何となくそんな気はしていた。
何かを忘れてしまっているような感覚は間違っていなかった。
ただ、何を忘れているのかは分からなかった。


「君は100年前、今回戻ってきた鳳橋隊長の下で三番隊の副隊長をしていたんだよ。彼らとはとても仲が良かったんだ。」
「私はそんな人たちを、大切な人たちのことを忘れてしまったんですね…」
「彼らを助けるために、遊ちゃんが卍解を使った代価だそうだ。遊ちゃんのせいじゃないよ。」


現にそのおかげで彼らは助かってこうして戻ってこられたんだよと隊長は仰ってくれたけど、私は何だか大きな喪失感に襲われていた。

初日だし疲れただろうからと今日は早めに上がらせてもらった。
明日、"私の大切な人たち"と会うことになったけど、緊張や申し訳なさで複雑な気持ちでいっぱいだった。


―私は夢見ていたのだろう。

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