3*幼馴染ズ


翌日の朝。
なまえが教室に入り、一番後方の自席に座る。すると、そろりそろりと緑谷が近付いてきた。

「……。」

チラチラと視線をなまえに向けるものの、緑谷は何も言ってこない。時に口をパクパクさせている。

「ふふ、おはよう。」

耐えきれずなまえが笑いながら声を掛けた。すると緑谷は昨日同様、顔を真っ赤にして慌てふためく。

「あ!おは、おはよう!」

その様子を見て、またなまえは笑った。

「指、大丈夫?」

緑谷の包帯が巻かれた指を見ながら言った。そこに笑顔はなかった。

「あ、うん、だだ大丈夫!それより、聞ききききたいことがっ」

キーンコーンカーンコーン

タイミング悪く、というか、緑谷が中々声を掛けられなかったことが原因でタイムリミットを迎え、慌てて席に戻って行った。

午前は必修科目・英語等の普通の授業が淡々と行われた。



そうして迎えたお昼休み。

「よし、今度こそ……!」

両手を握りしめて決意を固める緑谷。ふんすっと鼻息を荒くして立ち上がる。
その気配を背中で感じ取った爆豪が舌打ちをした頃には、既に緑谷はなまえの元へ向かっていた。

「あ、あああの!みょうじさんっ!」

「ん?はい。」

教科書をしまっていたなまえが顔を上げる。話しかけた張本人は直立不動で固まっていた。と、思ったら勢いよく息を吸い込み停止した。疑問符を浮かべるなまえだったが、少しして教室中に緑谷の声が響き渡った。

「きっ君は、なまえちゃんだよねっ!?」

「そう、だけど…?」

なまえの頭上に疑問符が増える。

「え、なになに、緑谷急にどうしたの?」

「チッ、クソデクが。」

目をぱちくりさせるなまえの前で再度固まる緑谷。クラスメイト達は緑谷となまえを見るも、状況が分からずざわつき始める。

「(つ、伝わってないぃ〜!不味いぞ、なんとか説明を…)あ、あの、ほら!小さい頃よくなまえちゃんと僕とかっちゃんの三人で、ヒーローごっこしたの覚えてないかな?えっとー…そうだ、かっちゃんちの5軒隣に住んでたなまえちゃんだよね!?あ!かっちゃんていうのはね、」

「なまえ、テメェ、シラァ切んのもいい加減にしろや。このクソナードはともかく、俺ンこと忘れたとか吐かしたら思い出すまでブッ殺す。」

必死に思い出してもらおうと、赤裸々に幼少期の話をする緑谷に割って入ったのは爆豪だった。

「ふふ、もー、物騒だなぁ。ちゃあんと覚えてるよ、二人とも。久しぶりだね。」

なまえの口から覚えてると聞き、爆豪はフンッと鼻を鳴らして教室を出て行った。

「三人は幼馴染だったのか!」

「すごいですわ!奇跡の再会ですわね!」

飯田と八百万が明るい顔をして言う。緑谷はというと、固まりながらも大量の涙を流していた。

「う、うぅ…なまえちゃあああん……!!」

「出久はまだ泣き虫治ってないんだねぇ。」

なまえは笑いながらも、自らのハンカチで緑谷の涙を拭いてやる。

「ご、ごめ…あの、なまえちゃん、どうしてあの日、何も言わずに」

「待って、私の質問が先。わかる、よね。」

「ぐっ…うん、わかるよ…」

「じゃあ一緒に食堂行こ。ほら、もう泣かないで。」

なまえは自分より少し背の高い緑谷の頭を撫でる。緑谷は鼻を啜り、うん、と頷いた。

「行こっか。何食べよっかなー?」

目をごしごしと擦る緑谷の手を引き、なまえは教室を出て行った。

「お、幼馴染、なんだよな?」

「くぅぅう!幼馴染ぃい!」

上鳴がなまえ達の背中を指差し、誰にともなく問い掛ける。峰田は血涙を流していた。



食堂に着く頃には緑谷の涙もおさまり、二人の手は解けていた。

「出久、早速だけど」

「…うん、個性の事、だよね。」

なまえの質問、それは明らかだった。彼女は緑谷が無個性だという事を知っているのだ。無個性だとわかり、落ち込む緑谷を励ましてくれたのは、他でもないなまえだった。
そんななまえにですら、本当の事は話せない。緑谷は苦しく歯痒い気持ちをなんとか抑えつけ、突然変異で最近発現したのだと説明した。
いまいち納得のいっていない表情のなまえを見て、緑谷は心の中で何度も謝った。いくつも質問をぶつけるなまえに、緑谷はなんとか答えていく。聡いなまえを騙すのは容易ではなく、緑谷の個性の話だけで昼食を食べ終わってしまう。
すると、ようやく個性に関する質問攻めが終わった。

「…引子おばさんは元気?」

「へ?あぁ、すごく元気だよ!良かったら帰りに会ってく!?」

緑谷の回答に微笑みながらも首を横に振るなまえ。それを見て、いくら幼馴染とはいえ、女子を家に誘うなんて大胆な事をしてしまった、と慌てふためく緑谷だった。

「あ、そういえば、なまえちゃん、今はどこに住んでるの?」

慌て過ぎて挙動不審だった緑谷がピタリと動きを止め、なまえに問い掛ける。
なぜだかなまえも動きを止め、数秒の間の後、へらりと笑った。

「今はね、親戚の家でお世話になってるよ!あ、私先生に呼ばれてるから先に行くね!」

「え!あ、待って!」

緑谷の声も虚しく、なまえは空になった食器を手早く重ねると、お盆を持ち上げ「また教室で!」と駆け出して行ってしまった。緑谷は控え目に手を振るしかできず、姿が見えなくなるまで見送った。



緑谷と別れ、食堂を出ると足の速度を緩めるなまえ。軽く息を吐く。すると前から歩いてくる人影があった。

「よぉ、クソナードとの話は終わったかよ。」

「やだ、勝己、待ち伏せ?」

片手に2本のペットボトルを持った爆豪だった。あはは、と笑うなまえを無表情で見下ろす。

「ソレ、やめろや。」

「ん?どれ?」

なまえは尚も笑顔だった。爆豪は小さく舌打ちをして、なまえの鼻の辺りを指差す。

「そのツラやめろっつっとんだ。無理して笑っとんのがわかんねぇとでも思ったか!クソデクは騙せても、俺ぁ騙されてやんねー!」

「目が、すごい角度で吊り上がってるよ、勝己…」

それでもなまえは眉を下げ、困ったように笑った。再び舌打ちをした爆豪は、手にしていたペットボトルを1本なまえに投げた。

「わ!冷たっ!」

「教室まで付き合え。」

そう言って、もう1本のペットボトルを開けて飲む。

「変わんないなぁ。いつもそれ飲んでたよね。それに…私が紅茶好きなの、覚えてたんだね。」

「たまたま手が触っちまっただけだわ。」

並んで歩いていると、なまえの足は教室に着く前に止まった。

「あ?」

「先生に呼ばれてて、職員室行かないとだから。紅茶、ありがとうね!」

バイバイと手を振るなまえに、また爆豪は目を吊り上げる。

「先にそれ言えや!」

「いやでも、言うタイミングなかったし。」

「クッソが!じゃあ俺ぁたまたま職員室方面に用があんだよ!これで文句ねぇだろ!」

捲し立てる爆豪に、なまえはきょとんとする。

「…ぷ、あは、あはは!勝己、あは、言い方!あはは!」

「あ゛ぁ゛!?…たく、俺の前で笑うんなら、その間抜けヅラだけにしろよ。」

なまえの笑い声が徐々に収まり、小さく息を吐く。その頭にぽん、と暖かい掌が乗せられる。

「一丁前に無理しやがって。作り笑いなんがバレバレなんだわ。」

「へへ、ごめん。」

「……おけーり。」

「ん、ただいま。」

2023.6.13*ruka



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*confeito*