◆11 既知と未知


色とりどりの光で輝きを放つヨコハマの夜景。
ポートマフィア本部の最上階にある、大きな窓から其れを見下ろす男が居た。

ポートマフィアの首領、森鴎外。其の人だった。

何処を見るでもなく、ただ目下に広がる夜景を眺めている。

「みょうじ なまえ…か。懐かしい名だ。」

硝子越しに、丸くゆったり廻る光にそっと手を伸ばす。煌めく観覧車に過ぎし日の想いを乗せるかのように。



一方、ポートマフィア本部のエントランスホールには、任務から戻った太宰と中原、そしてなまえの姿があった。

「なまえちゃん、私達はこれから首領に任務の報告に向かうよ。君は今日は本部の仮眠室に泊まるといい。広くはないが、設備は充実してるよ。」

太宰はそう言うと、衣嚢から鍵を取り出しなまえに手渡す。
後で顔を出すからと、なまえの返事も聞かずに昇降機へと乗り込む太宰。
中原は何か言いたそうにしていたが、報告が先と思い昇降機へ向かう。

すると昇降機内には太宰が既に乗り込んで居るのに…否、太宰が先に乗り込んでしまって居る為、扉が閉まりかける。
中原は其れに気づき舌打ちをし乍らも走り、昇降機の扉を抉じ開けた。

「クソ太宰がぁ!手前、いま絶対"閉める"釦連打してたろ!」

「ちっ、一緒に乗りたくなかったのに。」

太宰は悪怯れる事なく、舌打ちをした後、最上階の釦を押す。
中原が無理矢理抉じ開けた昇降機の扉がゆっくりと閉まりなまえの姿が見えなくなった。

「ねぇ、中也。」

中原が昇降機内奥の、太宰と対角線上の壁に凭れ掛かり、最上階への到着を待とうとした時、太宰がふいに話しかけた。

「なまえちゃんの事、随分と気になってるみたいだね。」

「なっ…て、手前には関係ねぇだろ。」

中原は最初、何時もの様に揶揄われているだけだと思ったが、何やら太宰の雰囲気が違う事に気付き、振り向きもしない太宰の後頭部を睨みつける。

「別に中也が如何なろうと驚く程に全く興味は無いし、考える事すら時間の無駄だと思うのだけれど」

「いちいちムカつく野郎だな。」

「取り敢えず、なまえちゃんとは接吻しない方が身の為だよ。」

そう言うと、太宰は少しだけ中原の方に顔を向け、はっきりとは見えなかったが微笑を浮かべている様だった。
中原が理由を聞こうと口を開いたところで、目的の階に到着した事を告げるベルが鳴る。
扉が開き無言で降りる太宰を、中原は静止する事はせず、続いて昇降機を降りた。

なまえの件で確信はなかったが、そこはかとなく感じるものがあった。また太宰の、輪郭の曖昧な言葉に若干の違和感もあった。
なまえの事を何処まで調べて知っているのかは不明だが、あの口振りは隠しているのではなく未だ総てを知らないという風だ。

「太宰と中原です。報告に参りました。」

太宰が重厚感のある扉の向こうへ来訪を告げ、入室を促す声が聞こえ、二人は扉の奥へと歩を進めた。


2018.04.08*ruka



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*confeito*