◆13 緑の中で見つけたものは


「報告は以上です。」

首領である森に任務の報告を中原が淡々と済ませる。

「ご苦労だったね。君達が行くまでもなかったかな。」

そう労った森の声色は退屈そうだったが、太宰に視線を移しにやりと嗤う。

「でも、君の目的は他にも在った様だけどね、太宰くん。」

総て御見通しかの様な森の発言に、中原は一瞬目を見開いたが、太宰は微動だにしなかった。

「先日お話したみょうじ なまえですが、本日捕捉しました。明日から中也の下に付かせようと考えています。」

「は?」

太宰の突然の提案に驚く中原に、森は小さな声で笑った。

「構わないよ。中原くん、明日みょうじくんを此処へ連れて来てくれるかな。」

「…はい。」



「おい、太宰。」

報告を終え再び昇降機に乗り込む太宰に向かって、中原が睨みつけ乍ら呼び止める。
太宰に止まる心算はなく、また昇降機の"閉める"釦を連打した。そして中原もまた舌打ちをして扉を抉じ開け昇降機へ乗り込む。

「私には既に芥川くんが居るからね。監視役は頼むよ。」

往路と全く同じ立ち位置になったところで太宰が話し始めた。

「出来るだけなまえちゃんが出る任務は私も同行するし、中也は…」

「ンな事は如何でもいいんだよ!捕捉って何だよ。大体にして彼奴は何者なんだ。只の暗殺者って訳じゃねぇんだろ。」

説明しろと苛立ちを隠さない中原に、太宰は態とらしく溜息を吐いた。背後の突き刺さる鋭い視線が疎ましい。

「愚問だね。首領に"自分を殺す様に暗殺者を雇いました"なんて言える訳ないのが解らないかなぁ。
なまえちゃんについては…」

昇降機が到着を告げるベルが鳴る。到着したのは十階の一般構成員が使う仮眠室階。

「本人に聞くのが一番だ。」

太宰が昇降機から降り、なまえの元に行くのだろうと、舌打ちをし乍ら中原も降りた。

太宰がなまえに渡した部屋番号に進む。中原が何やら文句を言い乍ら背後を歩く。少しして一つの扉の前で太宰が止まった。

太宰は数回ノックして来訪を伝えるが反応がない。ドアノブを回してみるが施錠されている。

「あれ、なまえちゃん?入るよ?」

何処から出したのか、太宰はピッキング道具を取り出し、いとも容易く解錠した。
中原は壁に背中を預け腕組みをし、其の姿を見ていた。

扉を開き、太宰が中を見渡す。然し、其処になまえの姿は無かった。其れどころか、此の部屋に入った形跡がない。

「迷子にでもなってんじゃねーの。」

背後から聞こえる溜息交じりの声は無視して、太宰は様々な可能性を考える。

「…そうだね、迷子かも知れないから手分けして探そう。中也は此処より上層階を頼むよ。」

中原は気怠そうに舌打ちをしたが、了承した様子で廊下を歩いて行った。
其の背中を見送り、太宰は一階の中庭に直行する。
中原に上層階を頼んだのは唯の嫌がらせでしかなく、なまえの居場所を中庭に絞っていたからだ。

首領の部屋に居なかった彼女が最近お気に入りの場所、其れが中庭だった。
恐らくはエリスと一緒に中庭に居ると考えた。

首領なら屹度、そう仕向けるのではないかと。



一階の中庭出入口に立つと、何やら少女達の声が聞こえてきた。
姿は未だ見えないが、声の主はエリス、そしてもう一人…なまえだ。
太宰は矢張りと思い、中庭の扉を開き中へ入って行った。


2018.04.19*ruka



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*confeito*