◇14 白詰草の花冠だった


「はい、出来たよ。」

なまえは完成したばかりの花冠をエリスに手渡してやる。
するとエリスは花にも負けない愛らしい笑顔で喜んだ。

「わー!あなた、センス良いわね!リンタロウと大違い!可愛い!」

色とりどりの花で作られた輪を暫く眺めると、エリスは嬉しそうに自分の頭上に乗せた。
なまえもエリスにつられるように自然と笑みを浮かべていた。
すると、ぽんとなまえの頭上に何かが乗る感覚がした。

「?」

「其れはあなたに。とっても似合ってるわ!」

エリスが作ったらしい花冠だった。なまえはありがとう、とまた微笑んだ。



「なまえちゃん、こんな所に…」

一瞬、風が吹いた錯覚を覚えた。
此処はポートマフィア本部建物内の中庭。中庭といえど青天井など無く、あるのは無機質なコンクリートの天井だ。
出入口の開閉で空気圧の変化による風だったのかも知れない。

私の声に反応してなまえちゃんが此方を向き、なまえちゃんの綺麗な長い髪がふわりと揺れる。

其の瞬間。

息が止まった。

窒息死、こんな死に方も悪くないと脳裏によぎって、また呼吸を始めた。

「あ、太宰!お話終わったの?」

エリスが近付いてきて話し掛ける。表情を変えず、視線だけ向けて答える。

「はい。首領の元へお戻りになられた方が良いのでは。」

エリスは口を尖らせてまだ遊びたいと駄々を捏ねていたが、私の後方から護衛の黒服が数名バタバタと中庭に入ってきた。
私が呼んでおいたのだ。

「エリス様!勝手に居なくなられては困ります!首領がお探しです!さ、戻りましょう!」

半ば強制的にエリスを中庭から連れ出そうとする黒服に観念したらしく、不機嫌乍ら出口へと歩み始めたが、数歩進んだ所で体を反転させる。

「なまえ、また遊んであげるわ!」

エリスは笑顔でそう言うと、先程迄の不機嫌は何処へやら、スキップして出て行った。

視線をなまえちゃんに移すと、怪訝そうな顔をしていた。

「首領…?太宰様、彼女は一体…」

花畑に座り込んだ侭、私を見上げて問うなまえちゃん。ロケーションとしては悪くない。たが…

「白いワンピースの方が良いね。スーツのスカートのスリットも好きだけれど。」

まじまじとなまえちゃんの姿を見て、思った事を言ってみるとなまえちゃんは何の話か解らなかった様で、怒るまで少しの時間差があった。

「太宰様、私はそんな事を」

「"様"、は此処では浮くからやめた方が良いと思うよ。前にも治で良いと…」

「話をすり替えないで下さい。」

純粋に警告してあげただけなのに、随分怒らせてしまった様だ。軽く息を吐いて答えた。

「彼女はエリス嬢。首領の…奥方、とでも言ったら首領は喜ばれるかな。」

皮肉を込めて言ったが、当然なまえちゃんには伝わらず、更に怪訝そうな表情を向けられた。

「まぁ、そんな事より…ソレ、よく似合ってるよ。」

なまえちゃんに冠せられた、真っ白な花のみで作られた花冠を指差して言うと、少しだけ照れた様に見えた。

立ち上がる様に、手を差し伸べて促すと、少し迷ってから白い手が添えられた。
"ありがとう"と小さな声が耳に届く。

白詰草の輪を冠した、天使を見つけた様な錯覚を覚えた。



*おまけ*

「エリスちゃーーーん!何処に行ってたのだい、心配したのだよう。」

「リンタロウが遊んでなさいって言ったんでしょ。」

「言ったけど!一人で出たら危ないよう。」

「一人じゃなかったわ。」

「おや、そうなのかい?」

「此れ、可愛いでしょう。似合う?」

「うんっうんっ!すごく可愛いよ!エリスちゃん!エリスちゃんは何でも似合っちゃうね!」

「必死な中年キモい。」

「非道い!でも可愛いから許す!」


2018.04.30*ruka



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*confeito*