◆15 緑の中で見つけたものは 〜ほうれんそう〜


「…そうだね、迷子かも知れないから手分けして探そう。中也は此処より上層階を頼むよ。」

太宰の提案を仕方なく受け入れ、怠そうに廊下を歩いて行く中原。
衣嚢に両手を突っ込み乍ら、通路や給湯室を覗き込んだり、女子トイレは入れない為、名前を呼んでみたりと、律儀な男である。

「ちっ……ンで俺が彼奴を探さなきゃならねーんだよ、面倒くせぇ…!」

口では文句を言いつつ、フロアの端から端まで探し終えたら一つ階を上り、また探しては上の階へと上った。
幾ら探してもなまえは居ないとも知らずに。

暫く探してみても一向に見つからないなまえに、中原は苛々が抑えられなかった。
既に階数は二十三階にまでなっていた。

スマホを見てみたが連絡は入っていない。取り敢えず、太宰に連絡してみる事にした。

「…………ちっ」

出ない。
仕様がないのでもう少し上層まで探してみる事にした。

中原は見つかる筈の無いなまえを探し続け、もう一時間強は経過している。
流石にもう上には居ないだろうと思い、階段に座り込みもう一度スマホを取り出す。
矢張り連絡は入っていない。太宰に電話を掛けながら胸衣嚢を探り煙草を取り出す。

『何、中也。私、君と違って忙しいのだけれど。』

今度は比較的直ぐに着信に応答した太宰だったが、必ず悪態を吐く。癪に障るが、いちいち反応していると話が進まない事が解っている為、「煩せぇ」の一言で済ます中原。

「なまえは見つかったのかよ。」

『え。』

「あ?」

『…。』

反応が無くなった。中原は嫌な予感しかしなかった。

「おい、太宰…手前ぇ」

『言い忘れてたけど、もうとっくに見つかって、今頃寝てるんじゃない?私も寝るから。』

其の言葉を最後に、聞こえてくるのは通話終了後の電子音のみ。一方的に切られてしまった。

中原は取り出したばかりの煙草を握り潰し、思いっきり壁に投げ付けた。

「クソ太宰がぁ!」



翌日ーーー

昨日の苛々が収まらない中原は、ポートマフィア本部内で周りに当たり散らしていた。
屑箱が在れば蹴飛ばし、部下達の挨拶には煩せぇ!と怒鳴る始末。

「死なす、絶対いつか、死なす…」

ぶつぶつと太宰への文句を言い乍ら、ある場所を目指し昇降機に乗り込む。
先に乗り込んでいた下級構成員が、中原を見て怯えながらも階数を訪ねた。

「あ゛?十階に決まってンだろ!さっさとしろ、殺すぞ。」

八つ当たりも甚だしいが、憐れ下級構成員、即座に返事をし十階の釦を押し、早く閉まれと必死に"閉める"釦を連打した。
然し其れが昨日の太宰と重なり、更に機嫌を損ねてしまった。

「殺す…!」

「す、すすみませんでしたー!!」

十階に着くまでも下級構成員は生きた心地がしなかった事だろう。十階までの十数秒が何時間にも感じただろう。
其れ程までに中原は此れでもかと殺気を放っていた。

無事に十階に到着すると、昨日の部屋の前まで大きな足音を立てて進む。
目的の部屋の前に立ち、其の侭の勢いで扉を蹴破ってやろうかと右足を上げた。が、悪いのは太宰でなまえは関係ないと、急に冷静になった。

舌打ちをして帽子を被り直す。
太宰の嫌がらせなんて何時もの事。
何を自分はそんなに苛立っているのか。

答えは出ていた。
なまえの事が絡んでいるからだ。

自分だけが全容どころか、片鱗すら虚ろ。
其の事に焦燥感を抱いている自分に苛立っているのだ。

「…だせぇ。」

少し落ち着いて扉を普通に叩いた。
然し、返事が無かった。ドアノブを回すと鍵は開いていた。
ポートマフィア本部内と言えど、不用心な奴だと思い乍ら中に入る。

「入るぞ………て、こりゃあ何の真似だ。」

中原が部屋に入った瞬間、何者かに後ろから喉元へ刃物を突き付けられた。

「小さい、帽子…なんだ、中也か。」

其れはなまえの声だった。
発言の後、直ぐに刃物は下げられた。

「手前…今なんつっ」

刃物が下がったタイミングで後ろを振り向く中原が目にしたのは、矢張りなまえだった。

下着姿の。

「ばっ!おま…着替え中ならそう言え莫迦!」

顔を赤くして、物凄い速さで前に向き直る中原。当の本人は然程気にしてない様子だった。

「廊下で待ってるから着替え終わったら呼べ!いいな!」

中原はなまえをなるべく見ないように、なまえに背を向け乍ら横歩きで部屋を出て行った。
其の姿が滑稽で、なまえは思わず吹き出し、其れが中原の耳に届いた様で嗤うな!と怒声が響いた。
怒られても可笑しいものは可笑しくて、なまえは笑い乍ら着替えを進めた。


2018.05.03*ruka



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*confeito*