◇20 時は早く過ぎる 光る星は消える


異能力の説明も済み、三人は首領の元へ向かった。
昇降機では毎度お馴染みの遣り取りがなされ、矢張りなまえは笑った。
其れを盗み見た中原は、何時もはムカつくだけの遣り取りの筈が、何故だか嬉しくて少しだけはにかんだ。

「あ、そう言えばなまえちゃん、さっきの告白だけれど」

「アレは太宰さんを異能で殺す為だけの嘘です、綺麗さっぱり忘れて下さい。」

柔らかく笑っていたなまえの顔が瞬時に真顔に戻り、否定の言葉を口にした。
そして更に追い討ちをかける。

「太宰さんの事を好きか嫌いかで言ったら、大嫌いです。」

辛辣ななまえの言葉に中原が腹を抱えて嗤いだす。

「残念だったなァ、太宰。大嫌いだってよ!」

「煩いなぁ…中也に言われなくても聞こえたよ。」

釈然としない太宰はムスッとした表情で二人から顔を背けた。
最上階到達のベルが鳴る。
太宰が二人に先に降りるよう促す。
なまえが降りる際に、聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた。

「私も君が、嫌いだよ。」

振り向いたなまえには、暗い瞳で冷たく微笑む太宰の顔だけが映った。



三人が一際警備が厳重な部屋へ入室すると、部屋の主は執務机で片肘をつき書類を眺めていた。
帽子を取り、胸に置き乍ら中原が話し掛ける。

「首領、みょうじをお連れしました。」

書類をパサリと机上へ置き、視線をなまえへ向ける。
森は微笑み乍ら言った。

「久し振りだね、みょうじくん。歓迎するよ。」

森の思い掛けない言葉に、其の場に居る森以外の者の思考が一瞬止まる。
"久し振り"という事は、以前に森となまえは会った事が有るという事になる。
然し、当の本人もキョトンとしている。

「おや、忘れられてしまったかな。昔の様に"なまえちゃん"と呼ぼうか。」

苦笑いを浮かべる森の顔を凝視して、なんとか思い出そうとするなまえだったが、思い出せそうで思い出せない。
中原はそんななまえと森とを交互に見て、太宰は面白くなさそうな表情を浮かべた。

昔の自分を知っている人間なんて数少ない。
何処かで会った…何処で。

なまえは記憶を辿り、思考を巡らせるが思い出せず、何か切っ掛けが無いかと探していると、見透かしたように森は嗤い、席を立つ。
何をするのかと三人は視線で森を追う。

部屋の片隅に在る外套掛けに歩み寄り、手に取ったのは白衣だった。
「これで如何だろう」と愉し気に袖を通し、きっちり束ねられていた髪を解きなまえに向き直る。
所謂、森の"街医者"スタイルだった。

其の瞬間、記憶が一気に呼び起こされたなまえは考えるより早く体が反応する。
此れには流石の太宰も、無論、中原も驚きを隠せなかった。

なまえが森に抱き着いたのである。

「………あんぱん医師!」

「「は?」」

太宰と中原の驚愕の声が同時に響いた。


2018.08.13*ruka



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*confeito*